宇宙空間で詩人が星々の美しさをたたえる日が来るかもしれない−。宇宙航空研究開発機構(JAXA)は今秋、「理系のみ」としてきた応募条件を撤廃して飛行士を募集する方針だ。月探査など、飛行士が活躍する舞台が増える見通しでもあり、十三年ぶりの募集となる今回は、医師やエンジニア、航空機パイロット出身者といった常連組にとらわれず、多彩な人材の獲得を目指している。
 「月探査を見据えた新時代の飛行士は理系か文系かではなく、任務に適応できるかどうかで選びたい」。JAXA有人宇宙技術部門の川崎一義事業推進部長は二月、JAXA主催のオンラインイベントで説明した。
 米国主導の月探査計画への協力を進める日本だが、飛行士の平均年齢は五十二歳。将来を見据えた世代交代は待ったなしだ。
 JAXAが一月に公表した募集案は「自然科学系の大学を卒業」「自然科学系の三年以上の実務経験」を削り、大学や短大、高専、専門学校を卒業すれば良いとした。「飛行士採用後に十年以上勤務する」との条件も見直す方針で、海外に例があるように、宇宙での経験を生かして元飛行士が教員や政治家として活躍することも可能だ。
 二〇〇八年の前回募集に応じたのは九百六十三人で、倍率は約三百二十倍だった。千五百倍超という人気を誇る宇宙大国の米国との差は大きい。JAXAは応募しやすくして、優秀な人材を多く確保する作戦だ。
 だが、飛行士が暮らす国際宇宙ステーションでは、複雑な機器の操縦や医学実験など理系の素養が求められる機会が多い。月探査ではさらに厳しい環境も予想されるが、文系でも大丈夫なのか。
 現役飛行士の若田光一さんは「民間航空機のパイロットは文系出身も多い。大事なのは任務に必要な資質があるかどうかだ」と強調する。二月のイベントに出席したTVクリエーターの加藤幸二郎さんも「自分でもやれると思わせることが重要だ」と評価する。
 JAXAによると、月探査計画は基地建設作業が中心なので、芸術家や作家の才能を生かす環境が整うには時間がかかりそうだが、夢は膨らむ。
 宇宙政策に詳しい笹川平和財団の角南(すなみ)篤理事長は、宇宙飛行士に求められる基本的な能力は文系でも理系でも変わらないと指摘。「文系出身者が飛行士になる機会を奪うべきではない。中学、高校で文理の進路が分かれてしまう日本特有の教育制度に一石を投じてほしい」と期待する。

中日新聞
https://www.chunichi.co.jp/article/231006

現役宇宙飛行士と前職
https://i.imgur.com/2Vnyp2n.jpg