「記紀神話の中の南方系神話」

天皇を中心とする朝廷の人々が最も愛着をもっていた物語が「記紀神話」である。
だから「記紀」神話を読み込むことを通じて、皇室の源流となる地域がどこで
あったかを知ることができる。
さまざまな話を集めた「記紀神話」中のかなりの部分が、南方的な信仰や文化の流
れをひいている。
前に紹介した北方的な要素は一部の神話だけに見られるもので、騎馬民族の文化
の影響は表面的なところに限られている。
そこでこのあと、日本神話の中の南方的要素を持ち込んだのはどのような
人びとだったかを考えていこう。


「日本に移住した江南の航海民 」

皇室の日向に対する思い入れ『古事記』と『日本書記』の中に、日本人が北方
から来たという発想はみられない。
「記紀神話」などには、南方を日本文化の故郷とする意識が見え隠れして
いる。江南の航海民は、日本の南方から来て南方系の文化を伝えた。
そして「記紀神話」がまとめられた時代の大和朝廷の勢力の最南端が、
日向であった。

それゆえ皇室の祖先にあたる二ニギ尊が降臨した地は、日向の高千穂の峰で
なければならず、磐余彦は日向から大和に来て初代の天皇になったとされた
のである。
皇室の先祖は、江南から来た移住者の首長であろうか、あるいは江南系の文化
を学んだ日本に古くからいた縄文系の首長であろうか。

武光誠 2019