【ニューヨーク=白岩ひおな、シリコンバレー=白石武志】米アマゾン・ドット・コムが南部アラバマ州で運営する物流施設で行われた労働組合結成の是非を問う従業員投票は9日、反対多数で否決された。アマゾンが声明で明らかにした。同施設での労組結成の活動を主導した小売り産業の労組「RWDSU」は投票結果に異議を申し立てる方針で、最終決着にはさらに時間がかかる見通しだ。

労働者の投票総数3215票のうち、反対票が過半数獲得に必要な1608票を超え、労組結成は否決されることが固まった。同施設では約6000人が働いており、投票率は約55%だった。アマゾンは賛成票が16%未満にとどまったと指摘した。従業員投票を管轄した全米労働関係委員会(NLRB)は集計を続けている。同社の労組結成は、経済のデジタル化が進む米国で格差是正をめざす動きとして注目を集めていた。

アマゾンの広報担当者は同日「従業員の声が最終的な結果に反映されたことをうれしく思う。従業員は組合への加入に反対するという選択をした」と歓迎する声明を発表した。連邦最低賃金の15ドルへの引き上げへの協力など米国で働く労働者の待遇改善に取り組む姿勢を強調し「お互いに対抗するのではなく、よりよい協力関係を築ける」と呼びかけた。

一方、活動を主導したRWDSUの幹部は「労働者の声が法の下で公正に耳を傾けられるまで休むことはない。労働者は必ず勝利する」とツイッターに投稿した。アマゾンが従業員の投票権に干渉する「露骨な違法行為」があったとして、NLRBに不服を申し立てる考えを示した。アマゾンは「事実ではない」と否定している。

アマゾンとRWDSUはNLRBに対し選挙結果や選挙中の行為に対する異議を申し立てることができる。約500票は投票資格の問題などで有効性が争われているという。

従業員投票が行われたアラバマ州ベッセマーの物流施設はアマゾンが20年に稼働させた。新型コロナウイルスの感染拡大局面でも操業を続けたことで職場感染に対する不安が高まり、3000人を超える倉庫労働者らが従業員投票の実施を求める活動に署名した。

アラバマ州の物流施設の平均時給は15.3ドルと同州の最低賃金の2倍超の水準だが、週40時間働いたとしても年収は300万円程度だ。一方、求人サイト「グラスドア」によるとアマゾンでデータ分析に関わる社員の平均年収は4倍強の約12万4000ドルに上る。労使対立の背景には、従業員同士の待遇格差への不満がある。

これまでアマゾンの米国内の拠点には労組はなかったため、賃金などの労働条件については労使が個別に交渉してきた。仮に同施設で労組が結成されれば、賃金や労働環境など待遇について代表者との団体交渉に応じる必要があった。

2〜3月にかけて郵送で行われた従業員投票の期間中は、トイレの個室にまで労組結成に反対票を投じるよう呼びかける張り紙を掲げた経営側のなりふり構わぬ手法が米メディアの注目を集めた。バイデン米大統領はアマゾンを名指しすることは避けたものの、2月末に公開した映像の中で従業員らの意思を尊重するよう促していた。

アマゾンの全世界の従業員数は20年末時点で約130万人に上り、うち米国だけで95万人を超えるとされる。一部の施設では新型コロナ対策に不満を持つ従業員によるストライキも起きており、労組結成の動きは今後、米国内の他の地域の施設にも広がる可能性がある。

日本経済新聞 2021年4月10日 0:23 (2021年4月10日 5:24更新)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN095C60Z00C21A4000000/