「旭川に行くのよ。ねえ旭川よ!」と彼女は言った。「音大のとき仲の良かった友だちが旭川で音楽教室やっててね、手伝わないかって、二、三年前から誘われてたんだけど、寒いところ行くの嫌だからって断ったの。だってそうでしょ、やっと自由の身になって、行く先が旭川じゃちょっと浮かばれないわよ。あそこはなんだか作りそこねた落とし穴みたいなところじゃない?」村上春樹『ノルウェイの森』