飲食店の営業は「酒なし」に――。25日から始まる3回目の新型コロナウイルスの緊急事態宣言で、酒類を提供する飲食店は休業を要請されることが決まった。宣言が終わる5月11日までは酒を出さない営業しかできない上、行政からの協力金支給も滞っており、飲食店からは「もう限界だ」と悲鳴が上がる。

 「毎日、不安との闘い。つぶれるしかないのか」。大阪メトロ本町駅(大阪市中央区)につながる地下街のレストラン「本町イタリアン倶楽部」。オーナーの小山一樹さん(47)は、誰もいない店内でアクリル板を磨きながらつぶやいた。

 コロナ禍の前と比べると、売り上げは半分以下に減った。大阪府の営業時間短縮要請に応じ、2020年11月からはディナー営業をやめ、ランチ営業だけに変更。弁当の販売も始めたが、注文は1日1件ほどで「焼け石に水」の状態という。家賃だけでも月22万円かかり、赤字が続く。借り入れは2500万円にまで膨らみ、従業員の一部には休職してもらっている。

 大阪市では5日から「まん延防止等重点措置」が適用され、小山さんも二酸化炭素(CO2)濃度を測定するセンサーやアクリル板を購入した。約10万円の出費になったが、時短に応じた協力金は1月分までしか行政から振り込まれていない。コールセンターに入金の進捗(しんちょく)を尋ねても「分かりません」と繰り返されるだけだという。

 府によると、1月14日〜2月7日に時短営業をした飲食店から5万6000件の協力金支給申請があったものの、支給済みは4割の2万2000件にとどまる。提出書類の不備が少なくないというが、審査スタッフも当初(2月8日)の200人から、4月中に400人態勢に整える。担当者は「不正受給を防ぐためには時間はどうしても必要」と理解を求める。

 小山さんは、5月11日までの休業を決めた。周囲でも閉店が相次ぎ、シャッターを閉ざす店も多い。「飲食店は振り回され、補償もなく負担を押しつけられている。このままでは、大阪はゴーストタウンになってしまう」と嘆いた。

 ◇「いっそロックダウンしたら」

 立ち飲み屋が点在する尼崎中央商店街(兵庫県尼崎市)でも不満が漏れた。「神部(かんべ)酒店」の店員、山本裕大(やすひろ)さん(33)は「休業要請なんて、本当にやってられない」と憤る。尼崎市は5日からまん延防止措置の適用対象地域となったため、午前10時半〜午後9時半だった営業時間を午後8時までに短縮した。この影響もあって「いちげん」の客が来なくなり、売り上げが減っているという。山本さんは「通勤電車も満員で感染リスクがあるはず。中途半端な条件で飲食店をターゲットにするなら、いっそロックダウン(都市封鎖)して徹底的な対策をしてほしい」と求めた。

 輸入ワインを中心とした卸会社を京都市内で営む男性社長(63)は「『アルコール・ゼロ』はショックだ」と打ち明ける。大都市圏を中心にした得意先には、飲食店などを専門にした小売業者もいる。「利益率が高いアルコールで店が維持できる側面があるので、アルコールを提供できないと休業する店も多いはず。ボディーブローのような状態が既に1年続いているが、追い打ちを掛けることになるのでは」と心配する。

 自身の会社もこの1年で業務用の販売が落ち込んだ。「家庭で飲むお酒はスーパーなどで売れるだろうが、単価は安い。良いワインなどは飲食店でこそ飲まれる。非常に厳しい」と語った。【古川幸奈、鶴見泰寿、中村清雅、南陽子】

 ◇協力金「少なすぎて笑ってしまう」

 今回の緊急事態宣言では、床面積1000平方メートル超の大型商業施設は生活必需品売り場を除いて休業を求められる。大阪市内の百貨店各社は宣言の正式決定を受けて対応を決める方針だが、関係者は「休業要請には従うだろう。業績への影響は非常に大きく、しんどい」と落胆を隠さない。

 2020年4月の1回目の宣言時、百貨店では休業や食料品売り場のみの営業を迫られた。日本百貨店協会によると、20年4月の全百貨店の売り上げは前年同月比72・8%減。統計を取り始めた1965年1月以降、最大の減少率だった。特に、大阪市内の百貨店は全国平均を上回る78・9%減と影響は大きかったが、21年の大型連休も再び休業することになりそうだ。

 協会はこれまで、宣言が発令されても営業を継続できるよう求める要望書を政府や吉村洋文・大阪府知事に提出してきた。政府は休業要請に応じた大型商業施設に1店舗当たり1日20万円の協力金を出す方針だが、百貨店関係者は「少なすぎて笑ってしまう。休業は仕方ないが、十分な金銭的支援があるかないかは大きい」と語る。

4/23(金) 20:39  毎日新聞
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