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 空腹を抱えて突如現われた熊は、まず山側の窓辺に吊るされたトウキビを食おうとして窓から部屋を覗いた。
これに気づいたマユと幹雄の2人は驚き、大声をあげる。その声に逆上した熊は家の中に躍り込み、炉端の幹雄を一撃のもとに倒した。
マユは燃える薪で立ち向かうが、巨大な熊にかなうはずもなく、片隅に追い込まれ撲殺された。
薄暗い居間には燃えた薪が散乱し、屋内の隅には柄が折れ血糊に染まったマサカリが落ちている。
その血糊の手形やおびただしい血痕からみて、抵抗しながらも激しく逃げ回った様子がうかがえた。
どうやらマユはその場で一部食害されたらしく、夜具は、おびただしい鮮血に染まっていた。
熊は入りこんだ場所からマユをくわえて連れ去ったらしい。
窓枠には頭髪が束になって絡みついていた。足跡は血痕とともに向かいの御料林に一直線に続いている。
この経緯の推測に、疑う余地はなかった。