「私自身が先頭に立ってワクチン接種の加速化を実行に移す。必ず近い将来、この局面を乗り越える」

 菅義偉首相は7日夜の記者会見で、新型コロナウイルス感染の収束に向けた決意を表明した。夏の東京五輪・パラリンピック開催については「国民の命と健康を守り、安心、安全の大会を実現することは可能だ」と強調した。

 だが、緊急事態宣言の延長で感染を封じ込めることができなければ、医療体制は逼迫(ひっぱく)の度合いを増し、五輪の開催は危うくなる。首相は正念場を迎えた。

 そもそも今回の延長は、17日間で押さえ込む「短期集中」戦略の修正にほかならず、見通しの甘さを露呈した。4月23日の緊急事態宣言発令に先立つある日、首相は官邸で西村康稔経済再生担当相、田村憲久厚生労働相らと協議。西村氏が「強い措置なので短期間にすべきだ」と語ると、首相は「そうだな」と応じた。

 感染から潜伏期間を経て報告が上がるまで約2週間かかるとされる。宣言の効果を判断するには日数が足りないと考えていた田村氏は「解除基準はどうするのか」と発言したが、首相が答えることはなかった。

 東京や大阪には4月上旬に蔓延(まんえん)防止等重点措置が適用され、その後緊急事態宣言に移行した経緯がある。西村氏は重点措置とセットで効果は上がると踏み、経済への影響を懸念する首相はこの考えに乗った。感染力の強い変異株の存在や連休中は検査数が少なく実態を把握するのが困難という点を度外視した、希望的観測だったといえる。

 厚労省幹部は今月5日、公邸で首相に新規感染者数について「大阪は高止まりというのが実態に近い。東京は残念ながら増加傾向が続いている」と報告した。首相は黙って聞いた。

 延長を了承した7日の基本的対処方針分科会では「何を達成したら解除になるのか明確にしてほしい」などと政府への注文が相次いだ。具体的な目標を定めると、解除を政治的に判断する余地が狭まる。首相が解除基準について多くを語らないのはこのためだ。会見で首相は全国民へのワクチン接種の終了時期を問われたが、回答を避けた。

産経新聞 2021.5.7 23:22
https://www.sankei.com/smp/life/news/210507/lif2105070092-s1.html