人には、“世の中の定説"であっても「なんだかアヤシイなあ、オレは承服できん」というものが、一つくらいはあるのではないのでしょうか。

自分の場合は「日本の失業率は低い」が、それに当たります。特段、根拠があるわけではないのですが、ずっと長い間、そう感じていました。ところが最近、実に興味深いデータが発表されました。「失業者もコロナ感染者も少ない日本」という定説の前半部分の実像に迫ってみたいと思います。

パート・アルバイト雇用の変化

今年(2021年)の3月に発表された『パート・アルバイトの中で「実質的失業者」は、女性で103万人、男性で43万人と推計』(野村総合研究所、3月1日付)は実に興味深いデータです。詳しく見ていきましょう。

この調査は今年2月8日〜12日にインターネットアンケートとして実施されたもので、対象は全国の20〜59歳のパート・アルバイト就業者64,943人。

調査結果としては、

 ・パート・アルバイト女性のうち約3割(29.0%)が、「コロナ以前と比べてシフトが減少している」と回答
 ・そのうち「シフトが5割以上減少している」人の割合は45.2%(パート・アルバイト女性の13.1%)
でした。

昨年12月に行われた同様の調査と比較して、「コロナ以前と比べてシフトが減少している」人の割合および、そのうち「シフトが5割以上減少している」人の割合は、いずれも高くなっています。

パート・アルバイトの「実質的失業者」は約140万人
さらに調査結果を見ていきます。パート・アルバイト男性のうち「コロナ以前と比べてシフトが減少している」人は3割強(33.9%)で、そのうち「シフトが5割以上減少している」人の割合は48.5%(パート・アルバイト男性の16.5%)でした。

また、コロナでシフト減のパート・アルバイトのうち、休業手当を受け取っている人は依然として少なく、女性の7割強(74.7%)、男性の約8割(79.0%)が「休業手当を受け取っていない」と回答しています。

この野村総合研究所の調査では、パート・アルバイトのうち、「シフトが5割以上減少」かつ「休業手当を受け取っていない」人を「実質的失業者」と定義し、調査結果および総務省の「労働力調査」を用いて推計を行っています。

その結果は、2021年2月時点で全国の「実質的失業者」は女性で103.1万人、男性で43.4万人にのぼりました。

昨年12月の調査に基づく推計では、パート・アルバイト女性のうち「実質的失業者」は90.0万人であり、昨年12月からの約2か月の間に1割強、「実質的失業者」が増えていたという結果になりました。

もちろん、この調査で定義している「実質的失業者」は、一般的な統計上の「失業者」にも「休業者」にも含まれていません。

この調査のポイントのもうひとつは、「シフト時間を短縮する短時間休業であっても、休業手当を受け取ることができること」を知らない人の割合が非常に高いこと。女性53.1%、男性51.8%が認識していませんでした。

日本の場合、休業者数を見るべきかも
ここで、“日本の失業率の基本のキ"を見てみましょう。失業率はどのように計算されるかということです。いわゆる「完全失業率」と呼ばれるものです。総務省が毎月発表する「労働力調査」で確認できる数値ですね。

計算方法は、「完全失業者 ÷ 労働力人口 × 100」。

分子の完全失業者は、仕事を探しているものの仕事に就くことのできない人のことを指します。分母の労働力人口には休業者も含まれています。ただし、これは給料・賃金の支払を受けている者、または受けることになっている者を指します。ここに注目して、野村研究所の調査は行われています。

「日本の失業率は低くない」という“天動説"を信じ続ける自分にとって、気になるのは休業者の数なんですね。天動説の理論的根拠としては「アメリカのようにレイオフ(一時解雇)をすぐやれる国と違って、日本の完全失業者数値は低目に出るのはないか」ということです。

その休業者数の推移をみてみましょう。総務省の労働力調査では、一昨年の冬は190万人前後を推移していましたが、新型コロナの影響で昨年3月に200万人を超え、4月には過去最多の597万人に急増しています。昨年の4月といえば、第一回目の緊急事態宣言が発令された時ですね。

第一生命経済研究所のエコノミスト星野卓也氏によれば、昨年4月の失業率(失業者 ÷ 労働力人口)の分子に休業者を加えた値は、同年3月の5.3%から11.4%に急上昇。日本の失業率データは経済環境の悪化を過小評価していると同氏は分析しています。

5/10(月) 19:36
https://news.yahoo.co.jp/articles/1f671eaab188ef06e32467ed4d60428df559f92d?page=1