【コロナに追い詰められた子供たち】

 子供の自殺、メンタル崩壊を突き詰めていくと、必ず母親に突き当たります。子供の自殺と同じように、女性の自殺も、コロナ禍で増えているのです。

警察庁と厚労省が発表した2020年の自殺者数は、前年比912人増(4・5%増)の2万1081人で、11年ぶりに増加に転じています。このうち、男性は1万4055人と減少したのに対し、女性は7026人と2年ぶりに増加に転じています。

 年代別では、40代が3568人(前年比142人増)と最も多いのですが、若年層も増えています。小学生が15人、中学生が145人、高校生が338人で、合計498人にのぼり、これは1978年の統計開始以来最多となっています。

 4月9日に警視庁が発表したところによると、前月自殺した人は1925人で、去年の同時期に比べて167人も増えています。自殺者のうち女性は655人で、なんと28・9%も増加しており、これは昨年6月から10カ月連続で前年を上回っています。すべてコロナ禍が遠因といえるでしょう。コロナ禍が、女性の暮らしを直撃し、金銭面、メンタル面で追い詰め、その影響を子供たちが被っています。

 厚生労働省は「とくに女性は、コロナ禍で仕事や家庭、子育てなどさまざまな場面で悩みを抱えやすくなっている可能性がある。1人で悩みを抱え込まず、『こんなことを相談していいのか』と迷うようなことでも遠慮せずに支援機関や自治体などに相談してほしい」と呼びかけています。

 女性差別がここまで酷い国は、先進国では日本以外にありません。先日発表された世界経済フォーラム(WEF)の「ジェンダーギャップ指数」では、日本の男女不平等ランキングは156カ国中120位です。このことを端的に示すのが、日本では女性の賃金が男性の7割程度に抑えられていることです。これでは、シングルマザーになった場合、子育ては人並みにできません。

 年々、母子家庭が増えています。いわゆるシングルマザーの家庭ですが、その貧困率の高さは異常です。貧しければ、心も蝕まれます。多くのシングルマザーが、非正規雇用に従事しているので、貧困からの脱出は困難です。

 シングルマザーの場合、子供が小さければ、フルタイム・正規雇用はほぼ無理です。ならば、非正規が差別されない、同一労働同一賃金を実現すべきなのに、日本はそれを行っていません。

 コロナ禍で、「お金も仕事も失った」「どこに相談すればいいのかわからない」というシングルマザーが増えていますが、相談しても社会の仕組みが解消されない限り、救われません。

 シングルマザーに限らず、コロナ禍では、男性よりも女性のほうに負担が重くのしかかっています。失業は圧倒的に女性のほうが多く、そうなると家事に集中することになり、家族がみな家にいる状態では、世話をする負担が増えます。働く母親はテレワークと家事をこなさねばならず、負担は増すばかりです。

 この母親の負担増が子供のストレスを増加させます。女性がゆとりを失うほど、恐ろしいことはありません。家庭崩壊は、男のエゴか女性の負担増で起きます。

 緊急事態宣言によるステイホームはDV被害を増やし、育児・子育ての負担増を加速化させました。ここからの出口は、一刻も早く感染を抑えることしかありません。そして、女性差別を解消することが、今後求められるのではないでしょうか。精神科医の現場からは切にそう願います。 =おわり

 ■吉竹弘行(よしたけ・ひろゆき) 1995年、藤田保健衛生大学(現・藤田医科大学)卒業後、浜松医科大学精神科などを経て、明陵クリニック院長(神奈川県大和市)。著書に『「うつ」と平常の境目』(青春新書)。

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5/10(月) 16:56
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