HIVに対する有効なワクチン候補は未だに存在しない。
新型コロナウイルス感染症を引き起こす新型コロナウイルスに対しては、その出現から1年足らずのうちに有効なワクチンが複数作られたにもかかわらずだ。

HIVはそう簡単には対処できない敵であることがわかってきた。抗体は、ウイルスの表面にある特定のタンパク質を標的にする。しかし、HIVの変異性は極めて高く、抗体が認識できない変異株をすばやく作り出し、常に免疫系に一歩先んじる。
初期のある研究において、HIVに感染した人の血液を繰り返し検査したところ、免疫系が作る抗体は常にウイルスの変化から3〜6カ月遅れていたことがわかったという。

エイズワクチン開発の3番目にして現在の波は、2000年代末に始まった。きっかけは、HIVに感染した人のごく一部から、HIVの多様な株を一度に中和できる特に強力な抗体が見つかったことだ。
そうした「広域中和抗体」は、これまでに数十種が特定されている。広域中和抗体は、どの株にも共通するウイルス表面の一部(新型コロナウイルスのスパイクタンパク質のようなもの)を攻撃する。

この発見は新たな発想をもたらす。血液中のナイーブB細胞(抗原を認識したことのないウブなB細胞)をターゲットにすれば、ウイルスに一歩先んじる効果的なワクチンを作れる可能性があると、シーフ氏は言う。
もしワクチンによって、ナイーブB細胞が広域中和抗体を産生するようにできれば、感染前にHIVを撃退できるようになるかもしれない。

「わたしたちがやろうとしているのは、免疫系を運転席に座らせ、ワクチンを使ってそれを段階的に教習していくことです」とシーフ氏は言う。
同様の考え方は、将来的にジカ熱、C型肝炎、マラリアなどのワクチンや、普遍的なインフルエンザワクチン、コロナウイルスワクチンの開発につながる可能性がある。


2021.05.14
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/21/051200229/