Diamondオンライン5.23 2:25
https://diamond.jp/articles/-/271940

● セミの大量発生
今年(2021年)、アメリカでは大量のセミが発生すると予想されている。13年あるいは17年ごとに大量発生するいわゆる「周期ゼミ」が羽化するからだ。

周期ゼミは、発生する年が同じものをまとめて「ブルード」(brood:元の意味は、ひと腹の子、種属など)と呼び、13年周期のものが3種類、17年周期のものが12種類知られている。各ブルードには発生する年別にローマ数字が付けられていて、今年発生する17年周期の「ブルードX」は、周期ゼミの中でも最大規模を誇る。なんとその数は数兆匹にもなるらしい。

ところで、なぜ周期ゼミが羽化するサイクルは13年と17年なのだろうか? 15年周期や16年周期の周期ゼミはいないのだろうか? 実は、周期ゼミの祖先には12年〜18年までいろいろな周期で羽化する群れがいたことがわかっている。しかし長い歴史の中で13年周期と17年周期以外の周期ゼミは絶滅してしまった。その理由は、12〜18の中で、13と17だけが素数(1と自分自身以外では割り切れない2以上の整数)だからだと言われている。現存する周期ゼミは「素数ゼミ」と呼ばれることもある。

素数ゼミが生き残った理由をもう少し詳しく見ていこう。セミの天敵である捕食者や寄生虫が3年ごとに発生すると想定してみる。たとえば発生周期が12年の周期ゼミは3と12の最小公倍数(共通の倍数のうち最小の数)である12年ごとに捕食者や寄生虫と同時発生する。つまり12年周期の周期ゼミは羽化する度に天敵と戦わなくてはならない。

一方、発生周期が13年の「素数ゼミ」が3年周期の天敵と同時発生するのは3と13の最小公倍数である39年ごとだ。天敵と同時発生する機会が少なければ、その分、絶滅の危険も少ない。

また、羽化する周期が異なる雄と雌が交雑すると、親とは羽化する周期が異なる幼虫が生まれて、親がいた群れがしだいに小さくなってしまう可能性も指摘されている。

たとえば15年周期のセミと18年周期のセミは、15と18の最小公倍数である90年ごとに同時発生する。これに対し、15年周期のセミと17年周期のセミが同じ年に羽化するのは255年ごとだ。他の周期のセミと交雑する機会が少ない17年周期のセミは、生存競争の上で有利なのである。

素数である13と17は他の数との最小公倍数が大きくなるという数学的な事実が、絶滅を免れた周期ゼミの羽化サイクルが素数であることを説明してくれるのは実に面白い。

●セクシー素数とは?
13と17のように差が4の素数同士を「いとこ素数」と言う。ちなみに3と5のように差が2の素数同士は「双子素数」、5と11のように差が6の素数同士は「セクシー素数」と呼ばれる(後者は、ラテン語では6を「sex(セクス)」と言うことに由来する)。

素数自体が無数にあることは、古代ギリシャの時代に証明されているが、双子素数もいとこ素数もセクシー素数も無数にあるかどうかはまだわかっていない(多くの数学者は無数にあるだろうと予想している)。

ところで、最も小さいセクシー素数である(5、11)から始めて、さらに6ずつ増やしていくと「5、11、17、23、29」の5つの数はすべて素数であることに気づく(次の35は素数ではない)。このように、登場する数がすべて素数であり、しかも隣同士の数の差が一定である数の列を「素数等差数列」と呼ぼう。「素数等差数列」は他にもある。「7、37、67、97、127、157」や「199、409、619、829、1039、1249、1459、1669、1879、2089」も素数等差数列だ。

素数等差数列の長さはいったいどこまで長くできるのだろうか? これは古くから多くの数学者を悩ませてきた難問である。そもそも大きな数が素数かどうかを判定するのはとても骨が折れる。長い素数等差数列を探すには大変な計算が必要なのだ。

コンピュータの時代になってようやく記録が伸びるようになった。2004年には23個の素数から成る素数等差数列が見つかっている。その最初の数は「56211383760397」、隣同士の数の差は「44546738095860」というものすごい数列だ。

その一方で、同じ2004年に数学界を揺るがす大発見が報告された。なんとオーストラリアのテレンス・タオ氏がイギリスのベン・グリーン氏と共に「素数の等差数列はいくらでも長くできる」というとてつもない定理を証明してしまったのだ(グリーン・タオの定理)。今のところ、実際に見つかっている素数等差数列の最長記録は27個である(2019年に見つかった)。現代のコンピュータを使っても記録更新は至難の業なのだろう。しかしグリーン・タオの定理によると、1億個とか1兆個の素数だけでできている等差数列も必ず存在する。(以下リンク先で)