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※リンク先に動画あり

<オーストラリア南東部ニューサウスウェールズ州でネズミが大量に発生し、公衆衛生上の問題となっている>
 オーストラリア南東部ニューサウスウェールズ州では、農村地帯を中心にネズミが大量に発生。
ネズミの波が農地や町に殺到し、農作物を食い荒らすなどして農家に甚大な経済的損失をもたらし、住宅や病院に侵入して人を噛んだり、
死骸が悪臭を放つといった公衆衛生上の問題も生じている。
2021年5月18日には、ニューサウスウェールズ州ダボの貯蔵庫で無数のネズミが仕掛けに群がる様子を捉えた動画がツイッターで投稿され、注目を集めた。

オーストラリア南東部ニューサウスウェールズ州では、3月下旬に大規模な洪水が発生、1万8000人の住民が避難を余儀なくされている。
その後、クモが大量発生し、住宅に押し寄せ問題となっている。
ネズミが大量発生している原因について、豪チャールズスタート大学のマギー・ワトソン博士はこうした気候的な要因をあげ、
また急速な都市化と農地の拡大で、自然にネズミを餌にする猛禽類の減少も理由の一つとしている。

■ 殺鼠剤への依存は、他の動物に影響を及ぼす懸念
ニューサウスウェールズ州政府は、5月13日、農家や小規模事業者らがネズミの駆除に充てる資金として5000万豪ドル(約42億5000万円)の助成金を創設するとともに、
現在、使用が禁止されている抗凝固剤系殺鼠剤「ブロマジオロン」の緊急承認を連邦政府に求めている。

しかしながら、毒性の強いブロマジオロンに過度に依存した対策は、ネズミを捕食する動物を含め、自然界の食物網に影響を及ぼすおそれがあると懸念されている。
豪エディスコーワン大学の研究チームが2018年4月に発表した研究論文によると、鳥31種、哺乳類5種、爬虫類1種で抗凝固剤系殺鼠剤の関与がみられた。

また、豪カーティン大学らの研究チームは、毒ヘビの一種であるジュガイドやタイガースネーク、マツカサトカゲを対象とする研究で
「いずれもブロマジオロンに曝露していた」との結果を示している。
北海道大学の研究チームが2018年12月に発表した研究成果では、フクロウやアカトビ、ハイタカ、ゴールデンイーグルなどの猛禽類の肝臓でブロマジオロンがみられた。

■ 代替策が検討されている
カーティン大学らの研究チームは、代替策として、「クマテトラリル」や「ワルファリン」など、ブロマジオロンよりも毒性が弱い第一世代抗凝固剤系殺鼠剤や、
毒ネズミを食べた他の動物には害を与えづらいリン酸亜鉛をブロマジオロンの代わりに用いるよう提唱している。
また、ネズミの餌となる作物を制限することも有効だ。
農場で穀物を残さないようにするほか、ネズミが侵入しづらい貯蔵庫の研究開発への投資も検討の余地があるだろう。

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