1958年の第2次台湾海峡危機をめぐる機密文書を公開した元国防総省職員の核戦略専門家ダニエル・エルズバーグ氏(90)が朝日新聞のインタビューに応じた。当時のアイゼンハワー大統領らがソ連との核の報復合戦へと至る事態を覚悟しながらも、中国本土への核攻撃を真剣に検討していたと証言。台湾海峡をめぐる現在の米中対立にも強い危機感を示した。

≪第2次台湾海峡危機 中国軍が1958年8月、台湾の金門島に砲撃を開始。米国は台湾への支持を表明して台湾海峡に米艦船を派遣し、中国軍による金門島の海上封鎖を妨害。中国軍は10月、砲撃中止の方針を示し、米軍との武力衝突は回避。1カ月以上にわたる危機は収束した。≫

 エルズバーグ氏は自らも執筆に携わった米国防総省のベトナム戦争の機密文書「ペンタゴン・ペーパーズ」を入手し、71年に暴露したことで知られる。同氏はこの際、モートン・ハルペリン元国防次官補代理が検証・執筆した第2次台湾海峡危機をめぐる最高機密文書もコピーしていた。エルズバーグ氏は「米国が中台間の紛争に再び武力介入する可能性があると言われる今、機密文書の内容を一般の人々にも広く共有してもらいたい。議論・検討してもらうことが大切だと感じた」と語る。

 機密文書によれば、アイゼンハワー大統領や米軍高官らが会議で戦術核を使って中国本土への先制攻撃を行うことを真剣に検討。同時に、米国の核攻撃に対してはソ連が参戦し、核による報復合戦に発展すると想定。トワイニング統合参謀本部議長も、米側の中国本土への核攻撃で「(ソ連が)台湾にはほぼ確実に、沖縄にも核攻撃で報復するだろう」と示唆した。

 エルズバーグ氏によると、のちの検証では、ソ連・中国にも米国と武力衝突にまで発展させる「意図はなかった」ことが判明。だが、ケネディ政権下のキューバ危機のように、「第2次台湾海峡危機でも(米側の核の先制攻撃で)全面戦争に発展する可能性は十分にあった」と語る。

 エルズバーグ氏はかつて米国の核戦争計画の策定にも深く関わった。「過去の破滅を導くような意思決定を振り返ったとき、『昔の人々は愚かだった』ととらえる傾向がある。しかし、当時の政治家も、今の人々と同じくらい優秀だった。そうした優秀な人々がとてつもなく愚かな判断をしてしまうのだ」と指摘。現在の米中対立に関し、「米中が全面衝突すれば、両国に甚大な被害がでるため、両国が愚かでなければ、戦争は回避されるように見える。しかし、それは必ずしも戦争が起きないことを意味しない」と強い警鐘を鳴らした。(ワシントン=園田耕司)

 エルズバーグ氏との一問一答は次の通り。

≪1931年生まれ。核戦略専門家。元米国防次官補特別補佐官、元米ランド研究所戦略アナリスト。71年に自らも執筆に携わった米国防総省のベトナム戦争の機密文書「ペンタゴン・ペーパーズ」を暴露、スパイ防止法違反などで起訴(のちに棄却)。その後は反核平和運動に取り組み、2006年には平和・人権分野で「もう一つのノーベル賞」と呼ばれるライト・ライブリフッド賞(本部・スウェーデン)を受賞。≫

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https://www.asahi.com/articles/ASP5X5J6VP5WUHBI04K.html
2021年5月29日 10時00分