週刊朝日  2021年6月11日号(鈴木裕也)
https://dot.asahi.com/wa/2021060100052.html

ネット上にはさまざまなフェイク情報が流れている。新型コロナウイルスの感染拡大が始まったばかりの昨年2月に多くの人を不安に陥れた「トイレットペーパーが不足する」というデマもその一つ。ネット発の噂の中から、話題になって“都市伝説”化したものについて検証してみた。

「黒マスク低学歴説」がネットで話題になったのは、昨年の初夏ごろ。マスク不足が次第に解消し始め、アベノマスク配布が始められた時期だ。人気ユーチューバーが「黒マスク柄マスクしてるヤツ低学歴説を検証する」という動画を公開。動画は30万人以上が視聴し、低学歴説の存在が流布され、今も一部で語られ続けている。

この動画では街で黒マスクをしている人に学歴を聞いていたが、浪人生や専門学校生、中には難関大学生もいて、結局、情報の真偽は不明だった。

そもそも他人が人の学歴を高い低いと言うのも失礼な話だが、今回の記事の目的は都市伝説の検証。あいまいなまま終わった調査の続きを記者が実施しようと、行ってみたのは東大赤門前。噂が事実なら、ここでの黒マスク率は低いはずだ。結果、1時間少々で175人が赤門から出て、マスクを着けていなかったのは1人。マスクを着用していた174人中、黒マスクは33人だった。黒マスク率は約20%。東大生でも5人に1人は黒マスクを着用しているのだから、マスクと学歴に関係はなさそうだ。

この日、黒マスクを着用していた東大関係者たちのほとんどは、都市伝説を否定した。

「馬鹿らしい。僕自身が反証なのでは?」(21歳男子学生)
「今日は友人と会うだけだから黒マスクだけど、面接とかには白マスクで行きますよ。学歴問題ではなく、エチケットの問題なのではないでしょうかね」(22歳男子学生)
「香港の民主化運動に敬意を表して黒マスクを使用してる。学歴とは関係ない」(19歳女子学生)

ではいったいなぜ、こうした根拠があいまいな風説が独り歩きするのか。ネット上にはほかにもたくさんの“都市伝説”が飛び交っている。

「090で始まる携帯番号の人はおじさん」
「ニキビができる位置で体の不調がわかる」
「花崗岩は新型コロナウイルスに効く」

どれもこの1年の間にネットで話題になり、都市伝説化した「噂」である。特に新型コロナウイルスに関しては「お湯を飲むと予防できる」「新型コロナは5Gの電磁波で活性化される」等々の噂がネット上を賑わせた。どれも「ありそう」な話ではあるが、エビデンスは不確かなものだ。

「ニキビで不調の部位がわかる説」は昨年の12月、あるインフルエンサーがツイッターに、自分の顔写真を使ってニキビと体の不調箇所がわかる「ニキビ地図」を投稿したところ、すぐに3万件の「いいね」がつきネット上に拡散した。

ある皮膚科医師は「ニキビは体の不調が表面化して出てくるものではなく、あくまで顔の皮膚のトラブル。足裏マッサージのツボと違って、思われニキビみたいな都市伝説」と断言した。要するに、ニセ情報なのだ。

「花崗岩は新型コロナウイルスに効く」は昨年の春ごろネットで広まった。一時はフリマアプリで、河原で拾った花崗岩が数千円で売買されていたが、明らかなデマ。医師で評論家の米山公啓氏は「コロナウイルスに特別な鉱物が効くという研究はありません。したがって花崗岩が効くということもありません」と、ズバリ断言した。

『うわさとは何か』という著書がある中央大学の松田美佐教授(社会情報学)は「黒マスクや090など、ネット上で広まる噂は、その真偽とは別に『それ、あるよね〜』という共感が得られるものが多い」と言う。

「『そんなのエビデンスがない』というより、『それありそうな話だよね』と笑い合ったほうが仲間内でも会話が盛り上がる。だから面白ネタとして広まるわけです。ネットの噂の場合も同様ですが、その速度は口コミ以上に速い。多くの人が『いいね』するものは本当らしく見えてしまう傾向があるので、なおさらです」(松田教授)

松田教授はさらに、新型コロナウイルスに関する“都市伝説”が多い理由として、米国の心理学者が1940年代に提唱した「噂の公式」を挙げる。噂の公式とは「R〜i×a」という式で、噂の流布量(R)はその重要性(i)とあいまいさ(a)の積で求められるというものだ。

「コロナは命に関わることで重要性が高い一方、はっきりした性質は解明されていないため、情報はあいまい。戦時中や災害後の混乱期と同じように、噂が広まりやすくなるわけです」(松田教授)噂の本質を理解し、ニセ情報に振り回されないようにしたいものだ。(一部略)