東京五輪開会式まで50日を切る中、新型コロナウイルス対策の専門家らが、開催に伴うリスク評価の提言の検討に入った。コロナ禍で五輪・パラリンピック開催を強行するのなら、大会規模の縮小や無観客など、感染状況に応じた対策が必要だとの意見が相次いだためだ。だが残された時間は少なく、提言がどこまで反映されるかは見通せない。(藤川大樹、沢田千秋、原田遼)
◆「お祭りムード」に懸念
 2日夜、厚生労働省に助言する専門家組織「アドバイザリーボード」の会合後に座長を務める脇田隆字・国立感染症研究所長は「大会のリスクを、しっかり評価すべきだとの意見があった」と明かした。懸念するのは、選手村や競技場の外での感染拡大だ。
 メンバーの1人は「(開催中は)どうしてもお祭りムードになる。人出が増えて、感染が広がる」と指摘する。観客の移動だけでなく、大会の関連イベントが開かれたり、観戦のために仲間同士で集まったりすれば、感染拡大につながりかねない。
 「(感染状況が最も深刻な)ステージ4では開催は難しい」「ステージ3なら最低でも無観客に」「大会に関わる関係者を、もっと減らす必要がある」。そうした意見を踏まえ、来週にも提言をまとめる方針だ。どの組織がどのような形で提言を出すかは未定。
 五輪開会式予定日が7月23日に迫る。日本医師会の釜萢敏常任理事は「リスクを下げるための提言をしても、実際に(実行)できるかどうか。不安を感じている」と漏らす。
◆人出が増えればリバウンドも
 五輪開催都市の東京都の現状はどうか。緊急事態宣言発令から5週間が過ぎ、新規感染者は減少傾向にある。感染状況を示す指標は全体ではステージ3に近くなっているが、気がかりは大型連休後の人出の増加だ。
 専門家組織が公表した資料では、東京は昼間も夜も人出は「明らかに増加」していると指摘。「対策への協力が得られにくくなっていることが懸念され、このまま(人出の)増加傾向が続くとリバウンドの可能性がある」と警鐘を鳴らしている。
 東邦大の舘田一博教授は東京の感染状況について「緊急事態宣言の中で再増加が起きるのではないかとの危機感を持って対応しなければいけない」と険しい表情を浮かべた。
◆カギはワクチン接種だが…
 現在、感染拡大を抑えるために期待を持てるのはワクチンしかない。接種スピードは加速し、全国で1000万人が1回の接種を終えた。それでも人口の1割に満たず、新規感染者が大幅に減るのはまだ先になりそうだ。
 専門家組織の会合では、20日の宣言解除を前提とした今後の感染状況に関する、仲田泰祐・東京大准教授らのチームの試算が示された。政府が目標とする1日100万回の接種ができれば、東京の新規感染者は9月に1000人でピークを迎え、その後は減少する。だが1日60万回にとどまった場合、新規感染者は8月に1800人に達する。感染拡大を抑えるカギは、ワクチン接種が握っている。

東京新聞 2021年06月04日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/108468