フィリピンの建設作業員ジェリー・カシダさん(43)は、ぜんそくのため無料の新型コロナウイルスワクチン接種の優先者リストに載っているが、
すぐに接種を受けるつもりはない。ワクチンがジェノサイド(大量虐殺)に利用されていると主張する女性の動画をSNSで見つけたためだ。

カシダさんは「他の国でワクチンが原因で死亡した人の数や、それがどう隠蔽(いんぺい)されているかについて、
フェイスブックで投稿をたくさん読んだ」と話す。

「私の母も民間治療師に相談したが、ワクチンは私の心臓に影響を及ぼす恐れがあると言われた」という。

東南アジアの感染中心地にはカシダさんのように、国内から、あるいは米国のワクチン反対運動から発せられる
SNS上の偽情報に影響されて接種を急がない、もしくは完全に拒否している人が何百万人もいる。

こうしたデマが東南アジアの一部でワクチン接種に消極的な姿勢に拍車をかけ、アジアでも感染リスクが高いこの地域で接種を促し
新型コロナのパンデミック(世界的大流行)を終わらせる取り組みを妨げている。

新規感染者が世界で最多の中に入るにもかかわらず、東南アジアでワクチンへの抵抗が広がっていることを最近の調査が示した。

世論調査会社ソーシャル・ウェザーステーションによると、フィリピンでは接種を受けるか分からないか、
接種に消極的だとの回答が68%に上った。タイの調査では3分の1の人が接種に懐疑的か拒否すると答え、
インドネシアの調査では5分の1近くの人が接種をためらっていることが示された。

ワクチン接種反対のデマが、こうした消極的な姿勢の大きな原因であり、
これは限られたワクチン供給という問題を既に抱えている国々で接種をさらに遅らせている。

タイとフィリピンでは接種を1回のみ受けた人ですら全人口の10%に満たない。

再生回数が多い英語の動画では、ワクチンを接種すると磁力を帯びるとの主張が展開されている。
マレーシアでは、生命や臓器への誇張されたリスクや、遺伝子が組み替えられるなどの誤った情報がフェイスブック傘下のメッセージサービス、
ワッツアップを通じて広がっている。

それらの多くは、米国の政治家や元ファイザーの科学者でコロナワクチンに懐疑的なマイケル・イードン氏の主張をねじ曲げて拡大解釈したものだ。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-07-01/QVJKX8T1UM1E01