いま私たちが取り組んでいるのは明らかに、2019年末に中国・武漢で浮上したウイルスよりも、はるかに感染力の高い(もしかすると2倍は高い)ウイルスだ。

昨年9月にイギリス南東部ケント州で最初に特定された、いわゆるアルファ株は、新型コロナウイルスの感染力を一気に拡大させた。
そして昨年末にインドで最初に特定された、いわゆるデルタ株が、その感染力をさらに強めた。

まさに、目の前で進化が起きている。
だとすると私たちの未来は暗いのだろうか。変異株は次から次へと果てしなく、より強力に「改良」され、ひたすら制圧しにくくなるのだろうか。
それとも、新型コロナウイルスの強毒化には限界があるのだろうか。

このウイルスがたどってきたこれまでの旅路を振り返ってみよう。まったく別の種に感染するウイルスから(遺伝子的に最も近いものはコウモリから見つかっている)、
私たち人間に感染するものへと種を飛び越えた。新しい仕事を始めたばかりのあなたにたとえてみよう。

有能ではあるが、その仕事に必要な能力をまだ完全に習得していない。
最初のウイルスには世界に壊滅的なパンデミックをもたらすだけの毒性はあったが、今では仕事をしながら学習しているのだ。

ウイルスが動物から人へとジャンプする時点で、「完璧な能力をすでに備えているのはとても珍しい」と、
インペリアル・コレッジ・ロンドンのウェンディー・バークリー教授(疫学)は言う。

ウイルスは「いったん人間にうつってから、そこに落ち着いて、大いに楽しむ」のだという。

インフルエンザやエボラ出血熱など、ウイルスが動物から人間へと宿主を変えて、それから一気に毒性を強める事例はほかにもあると教授は話す。

では、この流れはどこまで続くのか。

ウイルスが純粋に生物学的に広がる様子を比べる方法としては、基本再生産数(R0、Rゼロ)を見るのが最もすっきりしている。
誰も免疫をもたず、誰も感染予防策をとらなかった場合、1人の感染者が平均何人にウイルスをうつすのかを示す数が、R0だ。

中国・武漢でパンデミックが始まった当時、R0は約2.5だった。インペリアル・コレッジ・ロンドンで疫学モデルを作っているチームによると、
デルタ変異株のR0は8まで上がっているかもしれない。

「このウイルスには驚かされてばかりだ。恐れていた事態を超えている」と、英オックスフォード大学でウイルスの進化を研究するアリス・カツラキス博士は言う。

「18カ月の間に2回も、2つの系統(アルファとデルタ)がそれぞれ感染力を50%上げてくるなど、とてつもない量の変化だ」

感染力がどれだけ高くなるのか数字を挙げようとするのは「ばかげたこと」だと博士は言うものの、今後数年のうちにさらに感染力が飛躍的に高まることは十分にあり得るという。
R0が現在の新型コロナウイルスよりはるかに高いウイルスはほかにあり、それが記録的に高いはしかウイルスは爆発的な集団感染を引き起こすこともある。

「(新型コロナウイルスのR0が)さらに上昇する余地はまだある」と、バークリー教授は言う。

「はしかのR0は14だと言う人もいれば30だと言う人もいる。新型コロナウイルスが今後どうなるのかは分からない」
https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-57710818

https://ichef.bbci.co.uk/news/800/cpsprodpb/16B5F/production/_119232039_r_variant_comparison_2x640-nc.png