政府は9日、新型コロナウイルス対策で酒類の提供停止に応じない飲食店に対し、取引金融機関から順守を働き掛けてもらうよう求める方針を撤回にした。西村康稔経済再生担当相の発言を巡っては、飲食店だけでなく、金融機関からも批判が上がっていた。融資の打ち切りをちらつかせ、休業要請に応じない飲食店を従わせるよう政府から求められたと受け止めたためだ。西村氏は発言を撤回したが、「脅し」とも取れる手法への不信はやまない。
 「期間を定めて契約を結んでいる。取引先が休業要請に応じないからといって、融資を引き揚げることはありえない」。西村氏の発言を受け、ある銀行関係者は憤る。顧客の中心が中小事業者の信用金庫幹部も「金融機関は警察ではない」と戸惑う。
 政府はコロナ禍で、各金融機関に対して取引先企業に積極的な貸し出しをするよう何度も求めており、西村氏の発言はこれまでの政府方針と矛盾しかねない。銀行や信金などを監督する金融庁幹部は「今回の発言はまずかった」と認めた上で、「政府が金融機関の融資判断に口を挟む法的根拠はない」と明言した。
 批判の矛先は、9日午前に西村氏の発言を「承知していない」と述べた菅義偉首相にも向いた。東京都内の飲食店経営者は「(西村氏の発言は)どう喝なのに、菅氏の発言にはもっとびっくりした」と当事者意識のなさに憤った。(皆川剛、桐山純平)

東京新聞 2021年7月10日 09時54分
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