<まちビズ最前線>

 新型コロナウイルスの影響で苦境にある飲食業と宿泊業に、あえて新規参入する企業がある。逆風のなか船出する企業の戦略とは―。(木谷孝洋)

 東京都足立区に3月にオープンしたファミレス「ニトリダイニング みんなのグリル環七梅島店」。家具・日用品大手のニトリホールディングスが手掛ける飲食店の1号店だ。ニトリの大型店の敷地内にあり、閉店したステーキ店「いきなり!ステーキ」を衣替えした。
◆「値段以上の味」
 主力メニューは「チキンステーキ」(500円)や「リブステーキ」(990円)など。食材の直接仕入れのほか、食器の一部にニトリ製品を使い価格を抑えた。2度目の来店という同区の60代の男性は「値段以上の味で満足しました」と笑顔で話した。
 「衣食住」をトータルで客に提案することを目指すニトリは2019年から、「いきなり!ステーキ」のフランチャイズに参入。だがコロナの影響などで梅島店は今年に入り閉店した。

◆経営体力あるうちに「食」強化
 ニトリパブリック外食事業部マネジャーの小林純さんは「家具を買いに来ているお客さんに、食事ができる場所を早く提供したかった」と話す。巣ごもり需要を取り込んだ本業の家具や日用品販売は好調。経営体力のあるうちに「食」の強化も目指し、自社ブランドの飲食店の展開を狙った。
 梅島店は開店1カ月で約1万人の来客があり、想定を上回る。小林さんは「『みんなのグリル』はまだ実験段階。初めての飲食なのでスロースタートでいきたい」と語る。4月にオープンした相模原店(相模原市)に続き、7月21日には成増店(練馬区)を開店する予定だ。
◆足場固めの時期「良いタイミング」
 コロナを足場固めの時期と捉えるのは、5月にホテル「YANAKA SOW(ヤナカ ソウ)」を台東区谷中にオープンさせた、積水ハウスの子会社「積水ハウス不動産東京」も同様だ。
 当初は外国人観光客を取り込む狙いだったが、コロナで訪日客は姿を消した。同社事業開発部の大和充典部長は「宿泊業にとってこれ以上、悪くならない時期と考えて予定通りオープンに踏み切った」と話す。
 ホテルの特徴は谷中地区に詳しい専門スタッフが宿泊客の散策をサポートする点だ。大和さんは「地域のことを勉強しながらコツコツとやるには、むしろ良いタイミング」と前向きに考えている。

 ホテルは1泊は1万6000円からで、清掃料が別途7000〜8000円かかる。客室は広さ37〜47平方メートルの13室。各部屋にはテーマが異なるアート作品や本が置かれている。
 1泊から泊まれる短期滞在プランのほか、2拠点居住者などを対象にした30〜365日までの長期利用プランもある。長期利用の場合は、宿泊料も割引される。
 ホテルの企画・運営には、放送作家の小山薫堂氏が代表を務める「オレンジ・アンド・パートナーズ」(東京都港区)や、民泊仲介サイト運営会社「Airbnb(エアビーアンドビー)」が参加。現在、予約はエアビーアンドビーのみで受け付けている。

東京新聞 2021年7月11日 05時50分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/115635