有観客での東京五輪競技開催から10日に無観客へとかじを切った福島県。新型コロナウイルス禍を踏まえて「安全安心」を理由に掲げるものの、特需を見込んだ観光、飲食業界には残念がる声も。内堀雅雄知事は「苦渋の決断だった」と理解を求めた。

無観客での競技実施が決まった福島県営あづま球場周辺=福島市
 無観客での開催により、福島では観客を案内する都市ボランティアの活動も必要がなくなった。内堀知事は10日の会見で「応援したり準備してくれたりしていた人に申し訳ない」と謝罪。その上で、県内で最近のコロナ感染者の病床使用率上昇などを説明し「予断を許さない状況にある」と強調した。

 福島市のあづま球場でのソフトボール、野球の開催を盛り上げようと、同市は市民対象に入場チケットを販売中だった。10日現在で2800件を超える応募があった。東京五輪・パラリンピック競技大会市推進室の三浦裕治室長は「せっかく開催都市になり、市民も楽しみにしていただけに残念」と話す。

 一方、有観客での実施が示された翌日の9日には、市民から「東京から観客が来るのは困る」などと感染拡大を危惧する電話が10件以上あったという。「(コロナ禍の)この状況を考えると仕方ない」と三浦室長はみる。

 無観客開催による経済面への影響も予想される。福島市の土湯温泉では、東京五輪のスポンサー関係者からの団体予約、個人客から計数件の予約が入っているという。土湯温泉観光協会の池田和也事務局長は「スポンサー枠の取り扱いが見通せないが、キャンセルは覚悟しなければならない」と嘆く。

 福島市商工会議所の会員の一人は「直行直帰といえども宿泊や食事など一定程度の経済効果が見込まれたと思う。コロナ禍で疲弊している飲食店、宿泊業はさらに打撃を受けるだろう」と懸念する。

宮城知事「直行直帰呼び掛ける」
 北海道に続き福島県も無観客での競技実施となり、宮城県内にも動揺が広がった。

 県内では利府町の宮城スタジアムが男女サッカー競技の会場となる。町内の町内会長長井智さん(74)は「高齢な上に持病もあって感染すると重症化の危険性が高い。よそから町に人が来ることに心配が尽きない」と不安そうな表情を浮かべた。

 福島県の決定を受け、村井嘉浩宮城県知事は「有観客を前提に感染防止対策の徹底を大会組織委員会に求めるとともに、県も連携して試合終了後の直行直帰などを呼び掛ける」とのコメントを出した。

河北新報 2021年07月11日 06:00
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