保守派や極右の仏政治家は近年、公立学校で宗教上の要件を満たした給食メニューの提供を停止するよう命じている
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 【ベジエ(フランス)】10歳の少年リヤド・エル・バロウディ君は、通っている小学校のカフェテリアで給食をとる度にジレンマに直面している。

 リヤド君はイスラム教の戒律に従うため、父親から豚肉を食べることを禁じられている。だが今年1月、フランス南部ベジエの地元当局は公立学校の給食メニューを簡素化したため、提供される肉は豚のみとなってしまった。

 「これは挑発行為だ」。リヤド君の父親ラキド・エル・バロウディさんはこう述べる。

 フランスでは今、全国の公立学校が宗教と国家の厳格な分離を定めた「ラシエテ」推進派と、イスラム教徒との対立の舞台となっている。イスラム世帯の多くは当局がラシエテを拡大解釈していると主張。給食のメニューから、イスラム教のスカーフを巻いた母親が校外学習の保護者ボランティアとして同伴できるかまで、イスラム教の信仰を標的にするやり方であらゆる問題に適用しているとしている。

 一方、教師や学校職員、当局者らは、国内の学校は仏イスラム教徒の信仰を受け入れるよう圧力にさらされており、規模を問わず、数十年にわたる文化的変化に対抗していると話している。こうした圧力は、ラシエテおよび平等・自由・友愛の原則に基づいて建国された国家の価値観を阻害しているというのだ。

 教師らによると、生徒は信仰上の理由から、生物や歴史、音楽の授業への出席を拒否している。また、親は女子生徒が水泳の授業や校外学習に参加することを禁止しているという。仏調査機関Ifopが実施した最新の世論調査によると、一部の生徒が宗教上の理由から、授業に抗議したり参加を拒否したりしていると回答した中学・高校の教師は53%に上った。この割合は2018年の調査の46%から上昇している。

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 マクロン政権はまた、宗教を理由に教師など公務員に圧力をかけることを犯罪とする法案を議会に提出した。

 エマニュエル・マクロン大統領は昨秋、法案の提出に伴い行った演説で「フランスは国家と戦い、分断しようとする者たちに学校を通じて抵抗する」と主張した。法案には、モスク(イスラム教礼拝堂)など宗教組織の独立性を抑制する内容も盛り込まれている。法案は現在、上院に送付されている。上院では、校外学習に同伴する保護者ボランティアがあからさまな宗教上のシンボルを身につけることを禁止する条項を加えることを目指している。

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 かつての植民地である北アフリカから移民が大量に流入したことで、フランスの田舎町の人口動態やその社会通念も変化した。こうした中、冒頭のリヤド君の住むベジエのように、国内の多くの学校が豚肉に代わる給食の提供を開始。豚肉を食べたくないイスラム教やユダヤ教の生徒には牛肉や鶏肉の選択肢が与えられた。

 だが近年、移民が殺到したことを受けて、保守派や極右の候補者が地方で当選する動きが広がった。こうして職に就いた地元当局者は、ラシエテの名の下で、給食メニューで代替食品の提供を停止するよう学校に命じた。

 フランスの最上級行政裁判所の機能を有する国務院は昨年12月、ラシエテの原則は、個人の信仰を尊重するために、豚肉の代替食品を学校が提供することを禁止しないが、学校にはこれを実行する義務はないとの判断を下した。仏東部シャロンシュルソーヌの地元当局が2015年に、代替の給食メニューの提供を停止したことを受けて、あるイスラム教組織が訴えを起こしていた。

 ベジエのロベール・メナール市長は2014年、極右指導者、マリーヌ・ルペン氏の支持を受けて当選。今年になって代替食を排除した。新たなシステムでは、豚肉の入った給食か、ベジタリアンの週次メニューから選択することができる。

 メナール氏はインタビューで、イスラム教の生徒について「彼らは医学的な理由から、豚肉にアレルギーがあるわけではない」と指摘する。「豚肉が嫌なら、ベジタリアンの給食を食べればいい」

 冒頭のリヤド君は、自身の友達(大半はイスラム教)は単にカフェテリアに行くのをやめたと話す。「友達と一緒に過ごすためカフェテリアに行きたいけど、今ではおばあちゃんの家で昼食を取っている」

2021年7月15日 12:20 JST
https://jp.wsj.com/articles/frances-school-lunches-become-battlegrounds-in-dispute-over-islams-place-in-society-11626318900