アジア各地で、インド由来の新型コロナウイルスのデルタ株が猛威を奮っている。

なかでも、2月にクーデターが起きて以来混乱が続くミャンマーの状況は特にひどく、
医療機関がほとんど機能せず、医薬品も不足して次々と人々が亡くなっているという。

クーデターが起きたミャンマーでは、それ以降少なくとも1000人近くが殺害されたが、
クーデター以降に新型コロナウイルスへの感染で亡くなった人はそれを圧倒的に上回った。

ミャンマーメディア「イラワジ」によると、最大都市ヤンゴンでは毎日1000人程度が亡くなっていると言われる。
各火葬場や墓地などには毎日数百もの遺体が運び込まれ、遺体処理も葬儀実施も間に合っていない状況だ。

新型コロナウイルスのテストの陽性率も30%と高く、圧倒的に数が不足して感染状況は把握できない。

一番の問題は、クーデター後に多くの医療機関が停止し、患者を救える人が圧倒的に不足していることだ。
さらに、クーデターを起こした軍は国を統治できずに有効な対策もないうえ、物流も混乱して医薬品や医療物資が足りない。

もともとミャンマーの医療体制は脆弱だったが、クーデター後、多くの医療従事者や保健当局の公務員は、率先して抗議活動を行ってきた。
それゆえ彼らは弾圧の対象になり、逮捕され、拷問を受けてきた。逮捕されずとも身を隠している医療従事者も多く、本来の職務を果たせる状況にない。

公立の病院は軍によってクーデター以降に占領され、現在機能しているのはわずかな医療機関と軍の管理する病院のみだ。

クーデターの前には、感染拡大を防ぐためにテストが日々実施され、ワクチン輸入や接種計画も着々と進んでいた。
しかし、クーデター以降は多くの医療機関が停止したため、それらの実施計画も頓挫していた。

また、それまで新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐのに貢献してきたボランティア団体や個人も、クーデター以降に次々と拘束された。
逮捕されたのは、抗議活動に参加して傷ついた人々や社会の混乱で困窮した人々を支援したためだという。

このように医療システムが崩壊した状況で頼れるものはなく、感染しても医師の診断を受けることもできない。
唯一できるのは、解熱剤などを飲んで回復を祈ることだけだ。

重症化しても、入手した医療用酸素を自宅で吸引することで延命するくらいしかできない。

酸素供給も圧倒的に不足し、ここ数週間は医療用酸素を買い求める人々の長蛇の列が各地に見られるようになっていた。
多くの人々は、酸素すら得られずにただ亡くなっていく。


ミャンマー中部の都市マンダレーに住むテイン・ゾーは「軍は、このまま国中に誰もいなくなって、自分たちは生き延びようとしているのかもしれない」という。
彼は2月のクーデター直前に結婚したばかりだったが、7月に入って妻には新型コロナウイルスの陽性反応が出て、何の治療もできないまま、7月12日に亡くなった。

「妻は、クーデターのため、そして人々に重要なものを軍がすべて破壊しようとしたために死にました。
ミャンマーはさまざまな意味で死にゆく国です」。そう語る彼にも、現在はコロナの症状が出ている。

「イラワジ」によると、クーデター後に市民を拘束し、殺害してきた軍を、ミャンマーの市民はまったく信用していないという。
多くの市民が軍に対して憎悪の感情を持ち、「政権は人を殺すための武器や銃弾を買うための大金はあるのに、患者を支援するつもりも
パンデミックと戦うつもりもない」と皮肉り、「感染しても、軍に協力するより家で死にたい」と声を上げている。

香港メディア「アジア・プレス」では、ミャンマーを30年以上見てきた研究者のマリー・カラハンが、知り合いの全員が感染したか、患者の世話をしていると述べている。

「みんな死んでいく」という友人の声を聞き、今後2週間で公衆衛生システムは完全に崩壊し、あちこちが遺体で溢れかえるようになるだろうと述べる。
https://courrier.jp/news/archives/254122/