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「海洋放出はバリケードを作ってでも阻止したいぐらいだ」と、集まった首長らに訴える遠藤友幸さん(右端)。(撮影/本田雅和)

脱原発首長会議、福島原発事故被災地で緊急声明 「汚染水の海洋放出断念せよ」
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20210730-00010000-kinyobi-soci

「脱原発をめざす首長会議」の村上達也・元茨城県東海村長ら14人は7月11日、東京電力福島第一原発構内の視察や原発事故被災地での漁業者からの聴き取り調査などをふまえて福島県南相馬市内で記者会見し、「政府は汚染水の海洋放出を断念せよ」とする緊急声明を発表した。

 政府は4月、爆発事故を起こした第一原発の構内で毎日約140トンずつ増え続ける放射能汚染水から大半の放射性物質を除去した後もトリチウム(三重水素)など一定の核種が残る「処理水」を海水で薄め、2年後をめどに海洋放出する方針を明らかにしている。

 声明では、全国漁業協同組合連合会による6月23日の特別決議を引用して「国は原発事故に伴うALPS(多核種除去設備)処理水について、『関係者の理解なしには、いかなる処分も行わない』とする福島県漁連への回答(2015年8月=筆者注)を覆し、なぜ関係漁業者の理解のないまま方針を決定したのか、福島県のみならず全国の漁業者から怒りの声があがっている」と、大きな非難が起きていることを説明。6月には福島県漁連が海洋放出に「断固反対」する特別決議をあげていることも指摘し、「政府は、『人の復興』とは逆行する海洋放出を断念し、陸上での保管・処理へ舵を切るよう、強く求める」としている。

 これに先立ち、一行は北隣の相馬市の松川浦を訪れ、特産のアオサノリの養殖漁師、遠藤友幸さん(60歳)から話を聞いた。遠藤さんは事故後、津波で松川浦の地形も大きく変化する中で、放射能汚染を低減しながら収穫量を回復する努力を続けてきたが、市場価値はなかなか回復せず、漁業の担い手も高齢化していることを指摘。「年寄りの中にはカネ(補償金・賠償金)をもらえば漁業を辞めてもいいという人が出てくるかもしれない。そこに追い打ちをかけるように海洋放出の話が出た」と不安と怒りをあらわにした。

 声明でも「3・11のあと、懸命に取り組んでこられた方にとって、汚染水の海洋放出決定はそれまでの努力を無にするような負の効果を実感した。海洋放出は、『人の復興』とはまったく逆の方向を向いた政策であることを確信した」と強調している。

【「風評被害」は責任転嫁】

 首長会議世話人の一人、桜井勝延・元南相馬市長は「事故から1年後に入った第一原発構内は2、3号機近くでバスの中でさえ毎時1000マイクロシーベルトあったのが、昨日案内された構内では毎時82マイクロシーベルトだった。だいぶ下がったという感覚はあるが、政府が約束した追加被曝線量年間1ミリシーベルトに値するのは毎時0・23マイクロシーベルトだから、ぎょっとするような数値。汚染水問題は自分に関係ないと思っている人にとっては安全だという説をうのみにしがちかもしれないが、漁業者にとっては自分の人生をだめにしてしまうような大きな問題なのだ」と語った。

 トリチウムの安全性については同会議事務局長の佐藤和雄・元東京都小金井市長が「大量に海洋放出されたカナダなどで住民に被害が出たとの報告もされており、漁業者の利害からだけで反対しているわけではなく、安全性についても疑念があるからこそ、陸上保管やモルタル固化などの代案を示している」と解説。遠藤さんら地元漁師は「本来、代案というのはわれわれ被害者が考えるべきではなく、加害者の国や東電が出すべきもの」と反発している。

 会見で筆者が問うた「風評被害」に関する考え方についても佐藤事務局長は「放射性物質を環境中に拡散することで、影響やリスクは必ず存在する。原発事故により現在の状況を生み出した責任は政府と東電にある。『風評被害』というのは責任を他者に転嫁し、影響を懸念する人の口をふさぎ、健全な議論を封じる」とした。先崎千尋・元茨城県瓜連町長も「風評ではなく実害」とし、国・東電が示す「風評被害は東電が賠償する」という”カネで解決”の枠組みも「被害が救済されない可能性」を指摘した。

(本田雅和・編集部、2021年7月23日号)