アスリートにとって、試合当日にベストパフォーマンスが発揮できるかどうかは、当日までのコンディション調整が大きく影響する。多くの女性アスリートにとって、生理はそのなかでも非常に大きな調整要素だが、これまで積極的に議論が重ねられてこなかった現実がある。その背景には一体何があるのか。
元競泳五輪選手の伊藤華英さんも、大舞台を前に生理によるコンディション調整に悩まされた過去を持つ。生理とコンディションについてもっと早く知っていればよかった――そんな自身の経験をもとに「1252プロジェクト」を主導。10代のアスリートやその指導者に向けた月経教育を行っている伊藤さんに、女性アスリートの生理の実態や課題についてお話を伺った。


タブー視されてきた生理 コンディションへの影響は千差万別
――伊藤さんが生理について発信するきっかけになった出来事はなんでしょうか。

2016年のリオデジャネイロオリンピックの際、競泳の中国人選手が競技後のインタビューで、「今日は生理だから思うようなレースができず、チームメートに迷惑をかけたんじゃないか」と受け答えをしました。この発言についての取材依頼を受けたのが始まりです。
正直、アスリートが生理についてオープンに話すことに対して、これほど大きな反響があるとは思っていませんでした。それまで私の中では、生理が来れば心身に不調が出てコンディションに影響するのは当たり前のことでしたし、それに合わせて練習を調整したりするのは当然のことでしたから。生理をタブー視する周囲の人の意識と、当事者である女性自身の意識には差があるんだなと感じましたね。

(中略)

月経の症状は十人十色ですから、まずは自分の調子がいつどうなるかを知ることが大事です。それによって、例えば、月経と重なってしまいそうな試合をどうするかといった対処法に繋がってきます。近年、トップアスリートにおいても低用量ピルを服用するなどして月経対策を行う選手が増えています。

(中略)


10代の部活動生が抱える課題――背景に少ない女性指導者
――「女性アスリートと生理」について、伊藤さんがいま課題視していることは?

私たちのようなトップアスリートであれば、今はサポートも進んでおり、何年も同じコーチと一緒に積み重ねてきた信頼関係があるため、生理について話すこともそれほど抵抗はありません。しかし、部活動に励む10代の学生アスリートにとってはまだまだハードルが高いのが現状です。実際に部活動の現場では、「生理でお腹が痛いと言ったらメンバーから外されるかもしれない」という不安から、自分のコンディションについて男性指導者にきちんと伝えられないケースがあります。男性指導者からも、生理についてどうコミュニケーションを取っていいか分からないといった声を受けています。

――なぜそういった事象が起きてしまっているのでしょうか。

一番の問題は、現場に女性指導者が少ないことでしょう。一般企業でも、役員級の女性はまだまだ少ないですよね。健康問題や自分のコンディションの話をする際に、男性だけしかいないとなると、どうしても男性は生理のことは分からないし、生理に関する発想も出てきません。男性が知らないから悪いというよりも、女性がそういった現場にいないという社会的な課題が影響していると思います。また、初潮が来る前の月経教育や、男女の体の仕組みに関する知識の薄さも一因となっていると思います。

(中略)

生理を知ることは、広い意味を持つことを伝えたい
――10代が生理について学び、理解を深めていくことの意義とは?

今回の東京オリンピックのビジョンにも、「一人ひとりが互いを認め合い(多様性と調和)」という一節があります。男女平等、LGBTQの推進が謳われていますが、相手を理解し思いやることの第一歩は、身体的な差異があることを知ることだと思います。男女平等だからといって、全て形式的に一緒にすることが平等かといえば、そうではないでしょう。

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