神戸新聞next 8/5(木) 7:30

 兵庫県尼崎市内の放課後等デイサービス施設に通う発達障害児らを裸にして動画を撮影したり、暴行を加えたりする行為を、元職員の男(28)=兵庫県宝塚市=が繰り返していた。子どもを虐待から守るはずの職員が、なぜ道を踏み外したのか。神戸地裁尼崎支部であった公判で、動機と経緯が語られた。

 7月5日、男は強制わいせつや児童買春・ポルノ禁止法違反、暴行などの罪に問われて判決公判に立ち、裁判官に懲役3年の実刑判決を言い渡された。

 「警察の方から確認のために写真を見せられた時、涙があふれ出た」

 公判で被害児童の親が代理人を通じ、事件を知った時の衝撃を伝えた。愛する息子が下着を脱がされ、おもちゃのように扱われている様子が映っていた。

 「その日の送迎でも、被告と普通に会話していたことが、信じられない」

 男は社会福祉士の資格を持ち、施設ではセンター長という責任ある立場で保護者からの信頼も厚かった。

 判決によると昨年3〜8月、施設の同僚と共謀するなどし、利用者の男児4人にわいせつ行為や暴行を繰り返してきた。

 検察によると、2019年12月ごろ、男は裸の男児の下半身をスマートフォンで撮影し、共謀した同僚と笑い合うと行為はエスカレートしていった。

 20年4月には、当時9歳の男児の下着を脱がせた後、右足をつかんで無理やり開脚させ、動画を撮影した。当時11歳の別の児童には、三角座りをした背後から同僚が膝を持って抱え上げ、尻を突き上げるようにした上で、男がズボンや下着をまくり上げていた。頭部を平手でたたいたり、足で踏みつけたりもした。

 動画には小さい体で必死に抵抗し、嫌がる表情が映っていたという。男は逮捕後、「泣いて嫌がる反応を見て欲求が満たされた」「動画を撮る方が反応がよかった」などと話した。

 児童たちは精神的に追い込まれても、助けを求められなかった。1人は髪の毛をむしり始め、別の児童は自宅で無心に児童虐待の動画を検索するようになった。「SOS」を出し続けていたのだ。発覚経緯の詳細は明らかにされなかったが、通学する小学校が異変に気付いた。

 法廷で歩きづらそうに証言台に向かう男はつえを握っていた。拘留のストレスで適応障害になり、手足がしびれるようになったという。

 「自分がなぜこんなに重い罪を受けないといけないのかと思っていた」と当初は反省の色もなかったが、保釈後にニュースで大きく取り上げられる自分の名前を見て、事件の重大さに気付いたという。

 男は被告人質問で、妻から1冊の本を受け取ったことを打ち明けた。

 タイトルは「おかあさん、お空のセカイのはなしをしてあげる」。一人の少女が母親に、胎児の時の記憶を話すというエッセー漫画だ。なんで私は生まれたんだろう−。子どもの目線から、生まれてきた奇跡と喜びが描かれている。

 妻からの「罪の大きさに気付いてほしい」というメッセージに、男はうつむきながら「自分たちに子どもができて、もし同じことをされたら絶対に許せないと思った」と漏らした。

 裁判官は判決の最後に付け加えた。「(誰しも)子どもの行動を見て笑うことはある。しかし、あなたの行為は子ども本人、彼ら自身を笑っている。これは絶対に許されない」

 なぜ男は児童たちを「人」として見ることができなかったのか。公判が終わり、足を引きずりながら法廷の奥へと消えていった。

https://news.yahoo.co.jp/articles/2c6095f2511b352b1136c22e3875beb116765060