早朝に「ガシャーン」、お盆の一家襲った土石流…「2階にいれば大丈夫だと思っていた」

読売新聞オンライン
母子3人が犠牲になった土砂崩れ現場(16日午後5時34分、長野県岡谷市で)=早坂洋祐撮影

 本州付近に停滞した前線の影響を受け、全国の広い範囲で記録的な大雨となった。長野県岡谷市では15日早朝、土石流が発生して民家1棟に流れ込み、母子3人が亡くなった。民家には当時、お盆を過ごす親族8人が滞在していた。「現実を受け入れられない」。義理の娘と孫2人を失った巻渕政雄さん(68)は、突然の悲劇に言葉を詰まらせた。

 「ガシャーン」。2階で寝ていた巻渕さんは午前5時頃、激しい音で跳び起きた。同じ階の山に面した部屋では、巻渕さんの義理の娘で同県辰野町に住む友希(ゆき)さん(41)、友希さんの次男で辰野中1年の春樹君(12)、三男で辰野東小2年の尚煌(なおき)君(7)らが寝ていた。「みんな大丈夫か」。叫んでも返事はなかった。

 3人がいた部屋には大量の土砂が流れ込み、助け出そうと手で必死に泥をかき分けたが前に進めない。3人はその後、消防団員らに救出されて心臓マッサージを受けた。目を覚ましてほしいと祈ったが、息を吹き返すことはなかった。

 土砂は、住宅の裏山から流れ出て2階部分を直撃したとみられる。この家は巻渕さんの実家で、普段は誰も住んでいないが、仏壇があり、毎年家族が集まってお盆を過ごしていた。今年は8人が14、15日に滞在予定だったという。

 降り続く雨は心配だったが、巻渕さんは「川があふれても、2階にいれば大丈夫だと思っていた」と振り返る。前夜の14日は夕食で焼き肉を食べ、会話に花を咲かせた。「3人が生きていたことを皆に知ってもらいたい」。巻渕さんは思い出をかみしめるように語った。

 現場は土砂災害警戒区域で、周辺の雨量が15日午前3〜4時に44ミリに達し、連続雨量も300ミリを超えたため、市は同4時半頃に避難指示を出す必要があると認識。しかし、暗い中での避難は危険もあると考え、実際に避難指示を出したのは土石流発生後の同6時だった。

 16日の記者会見で今井竜五市長は「(避難指示発令の)躊躇(ちゅうちょ)はなかった。亡くなられた方がいたことは重く受け止めている。今回の経過を検証したい」と述べた。

https://news.yahoo.co.jp/articles/5aaf24eed2610f9cb8e3c827a5583bd7be417046
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