最近、中国の研究グループが公表した医学誌への掲載可否審査前(査読前)の論文で、
デルタ株感染者の体内にあるウイルス量は、従来株感染者の1260倍と報告されている。

つまり主要感染経路の飛沫に含まれるウイルス量が従来株より多いため、
感染者の周囲にいる人がウイルスを含む飛沫を吸い込む危険性が高まることに加え、
吸い込んだ後は免疫をすり抜けてヒトの細胞に結合しやすい。恐ろしいほど感染力が強い条件が揃っている。

このためかつては感染しなかった数分程度のマスクなし会話、不適切なマスク着用者同士の会話などでの感染リスクが高まっている。

実際、最近ではデパートの地下食品売り場(デパ地下)、学習塾といった、出入りする人がマスクをして
一定の感染対策をしている場所でもクラスターが発生し、家庭内では誰か持ち込めば、家庭内感染で家族全員が感染者になる状況も頻発している。

デルタ株の感染力は数字でも示されている。その一つが厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードで、
京都大学大学院医学研究科の西浦博教授が示した試算だ。新規感染の約80%がデルタ株と見積もられている8月11日現在の東京都の新型コロナの伝播力
(感染力)を従来株の流行時と比較し、デルタ株の感染力は従来株の1.87倍とはじき出している。
 
また、米疾病対策センター(CDC)が、1人のデルタ株感染者が免疫のない何人に感染させる能力があるかを示す「基本再生産数」を試算した。
それによると従来株の基本再生産数が1.5〜3.5人に対し、デルタ株では5〜9.5人と約3倍になり、空気感染する水ぼうそうの8.5人と同等と指摘している。

このためか「デルタ株は空気感染する」と早合点した人もいるようだが、現時点でデルタ株が水ぼうそうや麻疹などと同レベルの空気感染をするとの証拠はない。
あくまで基本再生産数がほぼ同じなだけで、やはり空気感染しない風疹の基本再生産数もデルタ株や水ぼうそうとほぼ同じだ。

CDCが水ぼうそうを例にしたのは、人口約3億3000万人のアメリカで年間の風疹患者数はわずか数百人で一般になじみがないのに対し、
水ぼうそうは数万人規模で、こちらの方が国民には分かりやすいためと考えられる。

ちなみに飛沫感染は、通常は1分もあれば地上に落下する咳やくしゃみ、会話などで口や鼻から飛び出した直径5μm(マイクロメートル・0.005mm)以上の、
病原体を含む飛沫(水滴)を感染者の1〜2mの距離にいる人が吸い込んで起こる感染。

一方、空気感染は飛沫から水分が抜けた直径4μm(0.004mm)以下の飛沫核が空気中を時には2〜3時間も漂い、それを吸い込んだ人が感染するもの。

ただ、新型コロナの場合、この2つの中間の「マイクロ飛沫感染」が特定条件で起こることが分かっている。
マイクロ飛沫は飛沫の中でも小さいもので、これが空間を数十分漂って飛沫感染が起こるよりもやや離れた人にも感染が起こる。

このマイクロ飛沫感染が起きやすい条件が、過去1年以上耳にタコができるほど聞かされた「三密」である。
ただ、感染力が強いデルタ株では、このうちの一つの条件を備えた一密でも起こり得る。

ざっくりとした例えをすると、50人定員のワンフロアの飲食店が満席でそこに感染症患者が1人いたとする。
この時に感染の危険が及ぶ人は、飛沫感染ならば周囲の数人程度、マイクロ飛沫感染(デルタ株)では十人前後、空気感染はフロア内全員というイメージだ。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/86708