毎日新聞
https://news.yahoo.co.jp/articles/25e885542808c2d3399547e72687f9d706433e69

 釣り中の事故に注意を――。新型コロナウイルスの感染拡大で、密を避けようと釣り人気が高まる中、海中転落など事故に遭う人が増加傾向にある。小型船舶の乗船者はライフジャケット(救命胴衣)の着用が義務付けられているが、磯釣りなどは義務ではなく、未着用者の死亡事故が発生。例年、気候の良い秋から冬にかけて釣りの事故は増えるため、海上保安庁は注意を呼びかけている。

 鹿児島県薩摩川内市湯田町の磯場。9月1日、ゴロゴロとした岩を踏み外さないようにしながら歩くと、花束が供えられた場所があった。

 この磯場では8月28日、1人で釣りに来ていた同県いちき串木野市の会社員の男性(55)が、海中に沈んでいるところを消防に発見され死亡が確認された。後から釣りに来た男性が、海中に浮かぶライフジャケットとクーラーボックスを見て118番通報したという。

 第10管区海上保安本部(鹿児島市)によると、2021年1〜8月、鹿児島県11人▽熊本県6人▽宮崎県4人――の計21人が釣り中に事故に遭った。18〜20年の同期間の事故は14〜18人で、今年は増加傾向にある。年間では18年29人(うち死者10人)▽19年20人(11人)▽20年25人(12人)――だった。

 新型コロナの影響もあり、釣り人気は高まる。死亡事故が起きた磯場で釣りをするという薩摩川内市の男性(53)は「コロナ禍だが、連休中は熊本や福岡ナンバーの車が止まっていることがある。夏場はサンダルや短パンで釣りに行く人も見た」と話す。

 21年は8月末までに鹿児島県と熊本県で各2人、宮崎県1人の計5人(前年同期は10人)が釣り中に死亡した。生死を分けた一つのポイントはライフジャケットだ。事故に遭った21人中12人はライフジャケットを付けておらず、死者に限ると4人が未着用だった。

 海上保安庁によると、船舶から海中転落した際、ライフジャケットの着用者は未着用者と比べて生存率が2倍以上高い。船舶職員及び小型船舶操縦者法の施行規則が一部改正され、18年2月から小型船舶の乗船者にライフジャケット着用が義務化されたが、磯釣りなどは義務ではない。

 鹿児島市の釣具店の従業員は「新型コロナの影響で密を避けて遊べると、去年は釣りを始める客が増えた。ただ、1日しか釣りをやらないかも、という人ほどライフジャケットは購入しない」と嘆く。

 例年、暑さが和らぐ9月ごろから釣りの事故は増え始める。第10管区海上保安本部安全対策課の首藤学課長は「ライフジャケットの着用や、海中転落した場合に助けてもらえるよう1人ではなく複数人で釣りを楽しんでほしい」と呼びかけている。【宗岡敬介】