「嫌いなものを嫌いと言って何が悪い」「キモい奴をキモいと言って何が悪い」「叩きたいものを叩きたいときに叩くのがネットのしきたり」

SNSの発達によって、憎悪や悪感情を思うまま吐き出せるようになったばかりか、同じ考えの者で繋がることも容易になりました。
辛口評論家や毒舌タレントの真似ごとをして、「自分以外すべてバカ」の価値観に入り浸ったままで居ることも容易になったように感じます。

いわゆる「憎悪ビジネス」も既に隆盛しており、ほとんどあらゆる方面を叩いて馬鹿にするだけの雑誌さえ世の中には存在します。
「自分の嫌いなものを代わりに叩いてくれた!」と溜飲を下げる目的で読まれているのでしょうか。

ところが、叩きたいものを叩く本能に根差したコンテンツ作りに異議が唱えられ始めました
。「メンタリスト」として活動するDaiGo氏がホームレスや生活保護を叩いたことによる炎上騒ぎです。
叩きの連帯ネットワークが持つリスクや薄っぺらさといったものが遂に露呈し始めた格好です。

■露悪マンガも炎上していた
今年6月に「月刊ドラゴンエイジ」という雑誌で掲載されていた「異世界転生者殺し―チートスレイヤー―」という漫画が、炎上の果てに1話打ち切りという末路を迎えていました。
私見ではDaiGo氏とチートスレイヤーの炎上は、「こいつキモい」で同意を集めようとした愚行の果てという点で同じと解釈しています。

チートスレイヤーが問題視された直接の原因は、敵役のメンバーがいわゆる「なろう系作品」の有名所に酷似したデザインで、
あまつさえ村を焼き討ちにするなどの悪事を働いていたことです。しかし、「なろう系」に対する態度が更に多くの怒りを買ったからこその打ち切りにも思えます。

作中、敵役への復讐を魔女が提案した時に手土産として情報を提示していました。
「奴らの『転生前』はおしなべて冴えない『陰キャ野郎』どもばかり。引きこもり、社畜、非モテ、笑えるほどのゴミ揃いだ」

「なろう系」では類似ジャンルが上位を独占しており、
「作るほうも読むほうも、冴えない自分から現実逃避したい考えが見え見えで気持ち悪い」というアンチ意見があります。
それへ安易に迎合して「なろう系は陰キャの読み物!キモイ!」で同意を得ようとしたのがチートスレイヤーの落ち度です。
(中略)
DaiGo氏へ賛同する者に足りないのは、「命の選別がまかり通ればいずれ自分も落とされる側になるかもしれない」という想像力です。
或いは、「自分の命には価値があるので、選別で落とされない」という根拠のない傲慢な自己認識で居るのかもしれません。
今安定した生活を送っていても、たった一つの些細な不運から簡単に安定は失われてしまいます。安定が永久でない以上、「命の選別」を認める訳にはいきません。

(中略)
かつては「露悪的な人間ほど(正直だから)信用できる」とも言われるほど、露悪主義・本音主義が至上とされていました。
その流れからか、「叩きたいものを叩く」という本能的な生き方も蔓延し、その生き方にコミットするビジネスも生まれます。

ありもしない悪意や皮肉を捏造され、意見を捻じ曲げられるケースも出てきました。
「息子が電車の模型にハマって、その影響で自分も少し電車に詳しくなった」という育児漫画が、
「これから成長するにつれて他にも色々な趣味を持っていくんだろうな」という部分だけ切り取られて、「息子が鉄道オタクになって欲しくない母親像」に捏造されたケースです。

https://shohgaisha.com/column/grown_up_detail?id=2248