65歳からもらえる老齢年金(老齢基礎年金・老齢厚生年金)を1年以上遅らせて、66歳以降に年金受給を開始することを「年金の繰下げ支給」といいます(繰下げを希望する場合は、年金事務所へ連絡することが必要です)。

現在は、繰下げできる年齢は上限70歳です。繰下げをするとひと月に年金額が0.7%増えて、1年間で8.4%、5年間で42%増えます。

ただ落とし穴があります。公的年金は終身年金ですから、長生きをされた場合は結果的に繰下げのメリットを享受できますが、そうでなかった場合は早くもらった方がよかった、ということになります。

75歳まで繰下げることができるようになる
この繰下げの制度が令和4年4月1日から変更されて、上限年齢が70歳から75歳となります。70歳以上75歳まで延長できる方は、令和4年4月1日以降に70歳になる、昭和27年4月2日以降生まれの方です。この制度を最大限活用すると、なんと84%も増額した年金がもらえます。

損益分岐点は何歳か
最も興味があるのは、何歳の時に“トントン”になるのか、ではないでしょうか。計算してみましょう(以下は、税金や社会保険等の負担は加味していません)。

(1)0.7%×120月(10年遅らせる)=84%
(2)78万900円(2021年度の年金額)×84%=65万5956円(70歳の翌月からもらえる老齢基礎年金の増額分)
(3)78万900円×10年=780万9000円(繰下げしない時の10年間の老齢基礎年金の総支給額)
(4)780万9000円(3)÷65万5956円(2)=11.904≒11年11ヶ月
(5)75歳+11年11ヶ月=86歳11ヶ月

86歳11ヶ月の時点で、繰り下げをまったくしない場合と“トントン”になり、その後は長生きすればするほど得をすることになります。

繰り下げを請求する判断
繰下げ請求を選択するかどうかは、各人の置かれた状況や考え方によって違ってきます。請求する時期による損得の判断は、その人があと何年生きるかわからないので難しいものです。ですから健康状態・経済状態・家族の状況などいろいろと勘案し、納得したうえで請求することが大切です。

令和元年の「簡易生命表」によると、日本の平均寿命は女性が87.45歳、男性が81.41歳です。65歳の平均余命は女性が24.63歳、男性が19.83歳。いずれも過去最高を更新しました。

損益分岐点の86歳11カ月は男性の平均寿命をすでに超えていますので、平均的な男性は繰下げするメリットはないかもしれません。65歳の平均余命で考えても、男性の寿命は84.83歳ですから、損益分岐点までは届かない可能性があるのです。

女性の場合は、平均寿命そして65歳の平均余命どちらで考えても、繰下げしてメリットを受けられるかもしれません。

いずれにしても、これはデータ上での見解ですので、このようなデータや自身の状況・環境などを考慮したうえで、総合的にご自身で判断を下すことが必要です。

さらに健康寿命で考えると、男性72.14歳、女性74.79歳で、元気なうちに年金をもらいたいと考えている方には、繰下げはあまりお勧めできません(厚生労働省「第11回健康日本21(第二次)推進専門委員会資料」(平成30年3月)より)。

注目したいのは、65歳の平均余命が、1年間で男性0.13歳、女性で0.12歳延びていることです。医学の進歩と健康意識の向上などにより、今後も寿命が延びていく可能性はあります。

繰下げの留意点
(1)加給年金や振替加算は増額の対象にはなりません。
(2)老齢基礎年金の繰下げ待機中は、振替加算はもらえません。
(3)老齢厚生年金の繰下げ待機中は、加給年金はもらえません。

(※)
厚生労働省「令和元年簡易生命表の概況を公表します」
厚生労働省「令和元年簡易生命表の概況」

執筆者:北山茂治
高度年金・将来設計コンサルタント

9/11(土) 8:11
https://news.yahoo.co.jp/articles/6a81488d74aa1996628e06d27611740f62f54006