目下、私たちの不安を掻き立てているのが、連日報じられている新型コロナウイルス「変異株」の動向だ。昭和大学医学部客員教授の二木芳人氏が解説する。

【写真】腕のシャツをめくり、約110度の角度でワクチンが打たれる様子

「ウイルスは増殖や感染を繰り返すなかで、その遺伝情報が少しずつ変異します。それにより、ウイルスとしての性質が変化したものを変異株と呼んでいます」

 インドで最初に確認されたデルタ株は、欧米や日本で主流になった。その後も立て続けにラムダ株、イータ株、カッパ株と登場している。なかでも二木氏が注目するのは、1月にコロンビアで確認され、世界40か国以上に広がった「ミュー株」だ。

「8月、WHO(世界保健機関)はこれをVOI(注目すべき変異株)に指定しました。まだ影響が明らかでない遺伝情報の変異も見られ、デルタ株に引けを取らない強力な感染力が懸念されます。

 ベルギーではワクチン接種が済んだ高齢者のミュー株感染による死亡が確認されました。また東大などの研究チームによると、ワクチンで得られる中和抗体の効果は、ミュー株では従来株の7分の1以下に低下し、デルタ株より低いことがわかりました」(同前)

 ミュー株に対抗できるワクチンはないのか。

「新型コロナに使われるmRNAワクチンなどの遺伝子ワクチンは、情報さえ揃えば変異に対応できるとされます。デルタ株に有効なワクチンはすでに完成したとの話も聞いています」(同前)

 ただし、その量産には時間がかかる。

「2年は必要でしょう。ミュー株に対しても同様です。今後も次々と登場するであろう変異株には当分翻弄される可能性が高い。どのような変異株にも有効性を持つワクチンが主流になるのは、もう少し先のことになるかと思われます」(同前)

なぜ「集団免疫」が獲得できない?

 9月半ば、日本で2回目のワクチン接種を完了した人が全体の50%を超えた。一方、政府の新型コロナウイルス対策分科会が3日にまとめた提言には「全ての希望者がワクチン接種を終えたとしても、社会全体が守られるという意味での集団免疫の獲得は困難」という文言が記された。一体どういうことか。

「集団免疫とは、人口の一定割合以上の人がワクチン接種などで免疫を持つと、感染患者が出ても他に感染しにくくなることで流行しなくなり、免疫を持たない人も間接的に感染症から守られる状態を指します」(二木氏)

 新型コロナワクチンにおいては、当初、6〜7割の接種率で集団免疫が達成できると試算されたが、感染力の強い変異株の出現により潮目が変わった。

 米メディアが報じたCDC(米疾病対策センター)の内部資料には、デルタ株は「(空気感染する)水疱瘡と同じくらい感染しやすい」と記されている。また日本でも「デルタ株の患者から検出されたウイルス量は従来型の4〜64倍」という報告が出され、感染力の強さを裏付けた。

「デルタ株の登場によって、8割近くの接種比率が必要だと言われるようになりました。しかも、感染力の強いデルタ株やミュー株には、mRNAワクチンの効果が下がることがわかってきた。既製ワクチンの2回接種では、重症化は防げても感染を防ぐことは困難。もし、これらのワクチンで集団免疫を獲得しようと思えば、3回目以降のブースター接種を視野に入れる必要があるでしょう」(同前)
https://news.yahoo.co.jp/articles/eb93cc131aa4641aa6b304f0ddc5258513fa8959