東京・JR渋谷駅(渋谷区)で今夏、駅員12人の新型コロナ感染が半月間に確認され、現場に一時不安が広がった。JR東日本東京支社は「相互の濃厚接触がなかった」として職場内クラスター(感染者集団)を否定したが、駅員が同じ部屋を使用していたことなどもあり、専門家は「無症状の感染者が媒介した可能性」を指摘する。 (小倉貞俊)
◆支社は「職場ばらばら、プライベートで感染の可能性も」
 同支社によると、12人は20〜50代で、担当は改札やみどりの窓口など。7月27日から8月12日まで、体調不良などで、それぞれPCR検査を受け感染が分かった。
 人数が増えたため支社が8月13日、感染状況をまとめて発表した。支社の担当者は「勤務する職場はばらばらで、感染経路は不明。保健所からはクラスターや職場内感染と判断されず、プライベートでの感染の可能性もある」と説明。12人の濃厚接触者は検査で、いずれも陰性だった。
◆現場からは社の対応に不満も
 感染拡大を受け、JR東日本輸送サービス労働組合東京地方本部が現場を調査。同駅では40人程度の出勤者が毎朝、南口駅舎2階の休憩室と事務室で「点呼」と称する朝礼をしており、12人も出席していたという。また、共同で休憩室を食事で利用するほか、1階の改札担当と窓口担当の2つの事務室は出入りの動線になっていた。
 同駅では最初の感染者が確認された7月末、休憩室の席を減らし、備品の消毒を徹底。支社は「適切に対応した」とするが、労組による同駅員へのアンケートでは「8月半ばまで管理者側から感染者情報が十分に発信されなかった」「テレワークを申し入れても実施まで時間がかかった」など対応の遅れを指摘する意見も多かった。
 30代の男性駅員は「対応が後手後手に回った感は否めない。利用者に影響しかねないエッセンシャルワーカーでもあるので、大きく構えてほしかった」と振り返る。
◆専門家は「迅速な対応こそ重要」
 国立国際医療研究センターの大曲貴夫国際感染症センター長は渋谷駅の事例について、「陽性と判明していない無症状の職員が介在した職場内感染の可能性はある」と指摘する。「無症状の人が間に入っていると、症状のある人同士の連鎖が見えなくなってしまい、感染の経路や広がりがつかみにくい」と説明した。
 問題は、感染者の発生を公表したがらない事業者も少なくないことだ。大曲氏は「結果的に問題を大きくしかねず、迅速な対応こそ重要」と話す。
 多くの医療機関では、職員や患者に陽性者が出た際、濃厚接触者だけでなく、勤務するフロア全体で検査し、クラスターの発生を防いでいる。第5波は収まりつつあるが、今後、第6波の可能性もあり、「各業界も感染発生時の対応やリスク管理の方法を事前に決めておく必要がある」とし、幅広い検査の必要性を訴えている。

東京新聞 2021年9月24日 12時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/132791