なぜCMには「字幕」が少ない? 10月から全国で放送可能に
9/28(火) 8:00配信
https://news.yahoo.co.jp/articles/fee0aa5b104def9d5218869ee64934cafe99049b

現在、テレビ番組の99.8%以上は、リモコンを操作するだけでON/OFFを制御できる“クローズド・キャプション”の「字幕」を表示することができる(2018年、総務省調べ)。でも、テレビCMはどうだろうか。

現状、字幕付きのテレビCMを放送できる枠は限られているため、CMの字幕付与割合はわずか1.02%(字幕付きCM普及推進協議会、2021年6月)にとどまっている。また、字幕付きCMを提供する広告主企業は、在京キー局5社のスポンサー企業延べ71社のみである。

主に字幕を必要としているのは、聴覚障害者や「難聴」を自覚する人。前者は全国に約34万1000人おり(2018年、厚労省)、後者は約3400万人とされる(2016年、総務省)。これらの人々にとっては、「テレビ番組は字幕付きで楽しむことができていたのに、CMに入った途端に理解できなくなってしまう」というのが日常だった。

この状況が今、少しずつ変わろうとしている。10月1日からようやく、“全国”で字幕付きのテレビCMが放送できるようになるのだ。

普及に向けて音頭を取っているのは、日本民間放送連盟・日本広告業協会・日本アドバタイザーズ協会で構成する字幕付きCM普及推進協議会。同協議会は総務省での検討会をきっかけに、2014年から普及推進活動を始めた。

協議会では、2020年9月に字幕付きCMの普及推進に向けた「ロードマップ」を作成し、大きく前進。2020年10月には関東エリア5局、2021年4月には関西、東海エリアを加えた15局で、字幕付きCMの受け入れをスタートした。この10月からはそれを、全国のネットワーク系列局と系列BS5局に拡大する。

ただし、広告主が個別の番組のスポンサーとして放送する「ネットタイム枠」「ローカルタイム枠」のCMのみでの受け入れとなる。

■なぜ普及してこなかったのか?

そもそも、字幕付きCMはなぜ普及してこなかったのだろうか。JAAの小出誠(資生堂ジャパン メディア戦略部エグゼクティブマネージャー)は、「広告主企業」「テレビ局」「広告制作会社」それぞれに課題があったという。

悪目立ちや字幕のかぶりへの懸念
広告主企業では、CMに字幕が付けられるという事実を知らなかったり、「なぜ字幕を付ける必要があるのか」が理解されていなかったりする。小出は「企業が社会的価値を高めるためにも多様性への配慮は重要です。また、マーケティングの側面から言えば、訴求したいターゲットの一部を失っていることにもなります」と指摘する。

実際に聴覚障害者へのアンケートでは、「テレビCMに関心がある」人が67%。「字幕付きCMのほうが商品を買いたくなる」という人は96%にものぼった。多くのニーズがあることが分かる。

テレビ局の課題は、字幕付きCMを放送できる枠が限られていたこと。その背景のひとつとして、ひとつの番組に複数の企業が提供している場合、字幕が付くCMとそうでないCMが混ざるため、「字幕を付けていない広告主が悪目立ちしてしまうのでは」といった懸念があったという。

また、“クローズド・キャプション”はCM本編とは別の信号で放送されるため、「タイミングがずれて別のCMに字幕が被ってしまうかも」という疑念もあった。テレビ局にとってCMは事業の根幹であり、安全・確実な運行が求められる。「実際にはその確率は極めて低いのですが、業界内ではなんとなく恐れる風潮がありました」(小出)。

さらに広告制作の現場でも、字幕広告の制作手順が周知されておらず、字幕を取り入れようと提案する者がいなかった。日本広告業協会の沼澤忍(電通事業企画局 チーフディレクター 兼 電通西日本 常務執行役員 グロースプランニングセンター長)によると、字幕付きCMは、放送上のレギュレーションに詳しい専門のエンジニアがいるポストプロダクションが請け負うことになるという。

「ポスプロによる字幕制作のコストは1タイプ十数万円。CM制作費が数千万円単位であることを考えると、少しの追加出費でより多くの方に見ていただけるようになるので、ぜひ積極的に取り入れて欲しいです」(沼澤)。

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