■コロナワクチンは理論上、“いいとこ取り”である

 そもそもワクチンとは何か。千酌教授の解説はこうだ。

 「人の体には、もともと病原体――細菌やウイルス――に対する免疫力が備わっています。ワクチンは、病原体そのもの、あるいは病原体の破片を与えることで人の免疫系を刺激して、病原体に強い体にする働きを持っています」

 病原体そのもの、あるいは病原体の破片を入れると聞いて、ドキッとする人がいるかもしれない。しかし、過剰な心配は不要だ。

 「病原体そのものを入れるタイプは“生ワクチン”といいます。病原体といっても、使うのは何代も培養して弱毒化された病原体であり、安全性は高い。一方、病原体の表面にあるタンパク質の破片を入れて人体を反応させるタイプは“不活化ワクチン”。病原体そのものではないので、弱毒化された生ワクチンより副反応はさらに少ない」

 安全性は不活化ワクチンに軍配が上がるが、効果は逆だ。生ワクチンの多くは、子どものころに1回打つと効果がほぼ一生続く。

 それに対して、不活化ワクチンは免疫をつけるのに複数回接種する必要があり、免疫力もいずれ落ちていく。安全性と効果の両方を考えると、生ワクチンと不活化ワクチンは一長一短といえる。

 では、新型コロナウイルスワクチンはどちらか。実は今回ファイザーやモデルナが開発したワクチンは、「核酸ワクチン(mRNAワクチン)」という新しいタイプになる。

 「核酸ワクチンは、生ワクチンと不活化ワクチンの中間をイメージするといいでしょう。入れるのは、病原体の破片の重要なところとなる設計図(遺伝子=mRNA)。これを接種すると、設計図(mRNA)に従ってタンパク質が、体の中で作られます。入れる過程では生ワクチンに近いと考えられます。入った後は不活化ワクチンのように働きます。

 ただ、免疫力は理論上、生ワクチンと等しい。また、遺伝子情報をすべて入れないので、不活化ワクチンと同じく病原体が増えることもない。両方のいいところを取ったワクチンで、今回がヒトに実用化された初のケースとなります」

 理論上優れていても、実際に効かなければ意味がない。気になるのは臨床での感染予防効果だ。