■ワクチンを忌避する人の不安を軽くする“声かけ”

 すでに損失を抱えているときの選択も興味深い。200万円の借金があったとして、何もしなければ借金は100万円に減額、コインを投げて表なら借金はチャラ、裏なら借金はそのまま200万円だとしよう。

 人間が不確実性を嫌うのなら、何もしないで少しでも借金を減らす選択をするはずだ。しかし、実際に多いのはコインを投げる人のほう。損失を前にすると、それを回避するため、むしろ積極的に不確実性を選ぶ。

 こうした人間の性質は行動経済学の「プロスペクト理論」としてまとめられていて、理論構築したダニエル・カーネマンはノーベル経済学賞を受賞している。千酌教授は、この理論を踏まえて次のように解説する。

 「ワクチンを忌避する人の行動も同じです。打てばベネフィットがあると頭でわかりつつ、副反応リスクを過剰に意識するし、逆に副反応という損失を避けるためなら、ワクチンを打たずに罹患するリスクを取ってしまう」

 問題は、非合理な判断を下しがちな人にどのようにアプローチするか。

 「まずリスクよりベネフィットを強調して伝えることが重要です。もちろんリスクがあることも隠さずに伝えるべき。ただ、それと同時に有害事象が起きたときの対応法なども教えれば、不安を軽くしてあげられるのではないでしょうか」