「2回打ったので大丈夫だと思っていた。だからといって油断したつもりもないが…」。
9月9日、熊日の「ハイ! こちら編集局」に、熊本市東区の85歳の男性から電話が入った。

新型コロナウイルスワクチンを2回接種した後、感染して入院療養中だという。
病室からの電話だった。いわゆるブレークスルー感染。回復と退院を待って、自宅で話を聞いた。

男性によると、8月30日ごろ、37度前後の微熱やせきの症状が出た。
ワクチン接種は2回目を7月26日に済ませ、近所の同世代の知人とは「お互い2回打って安心だね」と話していた。

9月2日にPCR検査を受けた際も、「風邪だ。コロナではない」と信じて疑わなかった。

翌日、保健所から陽性と告げられた。「まさか感染するなんて」。
美術館に行くときも人が少ない時間を選び、会話も極力しなかった。どこで感染したか見当もつかなかった。

入院先の病院が決まるまで4日間は自宅療養した。3人の同居家族は濃厚接触者とされたが、感染はしていなかった。

入院中は病室を一歩も出ることができず、看護師との会話はスピーカー越し。「対面の会話や面会が全くなく、退屈で寂しかった」。
熊日に電話したのは入院4日目。「『こちら編集局』にはいつも、相撲の場所前に優勝予想を伝えていたので、ついつい掛けてしまった」

発症当初から味覚が落ち、入院した時には食事の味付けが薄く感じた。食欲も落ちた。
「味が分からなくなったらどうしよう。ワクチンを接種したのに」と悔やんだが、看護師から「接種していたから重症化しなくて済んだんでしょうね」と言われ、ハッとした。

ワクチンの役目は感染を防止すること以上に、重症化を防ぐ意味が大きいことに気が付いた。

9月11日、退院。軽い倦怠[けんたい]感はあったが、味覚は戻っていた。
この日、妻が作ってくれたスパゲティの味が忘れられない。ウインナーやピーマンが入ったナポリタン。
「あまりにもおいしくて写真に撮った」。今もそのナポリタンの写真を見返しながら、回復した喜びをかみしめている。

「家族と食卓を囲むことがいかに幸せか。食べ物の味を楽しめることも素晴らしい」。
ワクチンのおかげで、あらためて感じることができたと思っている。

男性は「ワクチンを打っても感染はする。けれども意味は必ずあると伝えたい」と話す。

山が色づけば、体調と相談しながら、趣味のカメラを手に紅葉を撮りに出掛けるつもりだ。
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