選挙カーが行き交い、候補者が街頭で声を張り上げる4年ぶりの衆院選。有権者は政治に何を求め、訴えは届いているのか。投開票まで1週間となった週末の23日、福岡市中心部を終日歩いた記者(26)から見えたものは――。

政治を語ることへのハードル
 選挙運動が始まる午前8時。木々の葉が色づき、秋めいた大濠公園(福岡市中央区)では、ランナーらが肌寒い空気を切り裂きながら走っていた。

 1歳8カ月の長男を抱いた30代夫婦に声をかけた。「投票に行きますか」

 夫婦は顔を合わせながら「行く」と答えて、続けた。「長男の保育園が人手不足で大変そう。保育士さんのおかげで2人とも仕事を続けられているので、給料をもっと上げてほしい」

 午前9時半。遊具がある広場で村上千夏さん(42)は、3歳と5歳の息子を見守っていた。中国出身で日本国籍を取得したが、福岡には病院や幼稚園が多く、子育てしやすい環境で不満はない。ただ、「政治的な問題はあっても、中国と仲良くした方が経済的にはいいと思う」。

 寒さが和らぐにつれて人が増え、次第ににぎわう大濠公園。10組ほどの家族に声をかけたが、「政治の話は……」と断られた。一息つき、コーヒーを飲みながら考えた。「政治を語ることへのハードルは、なぜこうも高いのか」。選挙カーや遊説の音はまだ聞こえなかった。

 再び広場に戻った。出産のため愛知県から帰省中の会社員女性(33)は「困っていることが特にないので、選挙は行かない」。隣にいた父親(64)は政治を熱く語ってくれた。「野党は一度失敗しているから任せられない。消費減税と言うが、これだけ新型コロナ対策に使ったら足りなくなる。教育や医療に使うなら税金は上がっても構わない」。元会社役員で政治家の知り合いも多いという。家族間でも政治への温度差は大きい。

 正午になった。レジャーシートを広げていたライテン愛美さん(33)は、教育政策への思いを聞かせてくれた。福岡県糸島市に住むが、少し前まで暮らしていたノルウェーは大学まで教育費が無料だった。ノルウェー出身の夫と日本に帰国し、教育政策の差に驚いたという。「生まれた環境の違いで、受けられる教育の格差が生まれるのはおかしい」。4歳の長男の未来を考えて投票する。夫のヨンエドバードさん(32)は日本の永住権を持つが、参政権がない。「税金を払っているのに投票できないのは、排他的に感じる」

若者の政治離れは本当か
 昼の休憩をはさんだ後の午後2時。若者の声を聞こうと歩いて天神に向かった。大濠公園から約2キロ、周囲の景色は九州一の繁華街らしく次第に華やかさが増していく。いつもは若者でにぎわう警固公園には中高年が押し寄せ、政党幹部の演説に耳を傾けていた。

 公園内の喫煙所にいた福岡市南区の会社員男性(22)は、我関せずとばかりに一服していた。「選挙は行ったことないし政治なんて興味ない。テレビも新聞も見ない。見てもネットニュースのスキャンダルくらい」

 「政治次第でたばこ税はどんどん高くなるかもよ」と話を向けると、ほんの少し驚いた表情を浮かべた。「ツイッターとかインスタのクリックで投票できるなら投票するかも」

 岩田屋本店前を歩いていた2…(以下有料版で,残り1170文字)

朝日新聞 2021年10月25日 9時30分
https://www.asahi.com/articles/ASPBT2T4SPBSTIPE018.html