2021/10/29 15:00

 北京冬季五輪の開幕まで、あと100日を切った。各競技の代表選考レースが本格化する中、東京都大田区の町工場が力を合わせ、ボブスレーのそりの開発を進めている。ソチ、 平昌ピョンチャン 大会で不採用に終わった経験を糧に、今回はイタリア代表に採用されることを目指す。(上田惇史)





イタリア向け、改良続く

 「少しでもひずみがあると、タイムの遅れやトラブルにつながりかねない」。大田区西六郷の「五城 熔接ようせつ 工業所」。作業台で火花を散らし、そり底部の金属部品を接合する後藤智之さん(37)の表情は真剣だった。

 25歳で父の後を継ぎ、工場を1人で切り盛りする。自動車や家具の部品、電車の座席など、様々な仕事を請け負っており、合間に「下町ボブスレープロジェクト」の作業をしている。

 大田区は、ピークの1983年、工場が約9000あった。大半は従業員数人だったが、自動車やテレビ、ロケットの部品など、日本のモノづくりを支えてきた。

 バブル崩壊や後継者不足で、2008年には4362まで減少。高い技術力を国内外にアピールするため、11年に区産業振興協会がボブスレーの国産そり製作を発案した。

 切削や研磨など、町工場の職人技を合わせれば、海外メーカーに負けないそりができる――。約100社が無償で、部品約200点の製作を始め、そりが組み上がると、トップ選手を招いて試走し、空気抵抗の解析を繰り返した。

 1〜2号機は日本代表が試用したが、14年ソチ大会までに選手からの多数の要望に応えられないため、採用が見送られた。18年平昌大会では、映画「クール・ランニング」のモデルとなったジャマイカ代表が採用を決めたが、大会直前、他国製の方が優れているとして契約を破棄した。

 2回の不採用とコロナ禍による業績悪化で撤退する工場が相次ぎ、今、製作に携わっているのは、区内を中心に23社にとどまる。協賛金を出す企業も半減し、10社になった。

https://www.yomiuri.co.jp/olympic/2022/20211029-OYT1T50413/