日本や米国など6カ国は、原油価格の高騰を抑えるため石油備蓄を協調放出することになった。背景には新型コロナウイルス禍からの回復に伴う需要増を巡る、石油の消費国と産油国の思惑の不一致がある。史上初の価格調整のための協調放出を主導した米バイデン政権だが、効果は疑問視されるほか産油国との対立が一層深まる懸念もある。(ワシントン=吉田通夫・金杉貴雄)
◆生活直撃、支持率下落にも
 「米国民が高いガソリン価格に直面している主な原因は、産油国と石油元売り企業が需要に見合うだけの供給を迅速に増やしていないからだ」。バイデン大統領は23日の演説で、経済活動の再開で燃料需要が急増しているにもかかわらず、生産量を増やさない産油国への不満を隠さなかった。
 22日の全米レギュラーガソリンの週間平均価格は1ガロン当たり約3.4ドル(1リットル当たり約103円)。2014年9月以来7年2カ月ぶりの高水準で、1年前から上昇を続けている。米国では、ガソリンなどの交通費は住宅費に次ぐ2番目の支出項目で、国民の生活を直撃。政権の支持率下落にもつながっている。
 このためバイデン政権は、3カ月以上前から石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟国の産油国でつくる「OPECプラス」に増産を求めてきた。しかし産油国側は、新型コロナの再拡大で再び需要が落ち込む可能性を懸念。アラブ首長国連邦(UAE)のマズルーイ・エネルギー相は米テレビで、来年1〜3月には石油が余るとの予想があるとして「私たちを信頼することを勧める」と、増産に難色を示している。
◆「消費国カルテル」にOPECプラス反発
 焦る米政権が業を煮やして打った強硬策が今回の備蓄放出。同じくエネルギー価格高騰を心配する同盟国の日本や韓国、英国に同調を呼び掛けたうえ、インドや中国といった主要消費国も巻き込んだ。
 米国は備蓄放出を、11年にリビア内戦で石油生産が滞った際など生産体制に問題が起きた場合に限定してきた。日本も東日本大震災直後などに限っており、価格調整のための協調放出は史上初。原油価格への影響力強化を目指して拡大した「生産国カルテル」とも言えるOPECプラスに対し、「消費国カルテル」をつくることで産油国に圧力をかけた形だ。
 だが、米ブルームバーグ通信によると、OPECプラス側は反発して減産など対抗措置を検討するといい、むしろ亀裂が深まり譲歩を引き出せなくなる恐れもある。

◆米保守派は「気候変動対策と矛盾」と批判
 石油消費拡大を促す今回の対応は、米国内の保守派から気候変動対策と矛盾しているとの批判があるが、再生可能エネルギーを増やすには時間がかかるのも事実。「物価高への一番の対策は米国自身の石油増産だ」との皮肉も聞かれる。
 バイデン氏も23日、「われわれの行動は一晩で問題を解決しない」と矛盾を認めつつ「時間がかかるが、やがて価格が下がるのを見るはずだ」と国民に忍耐を求めざるを得なかった。
 放出量も米国分5000万バレルを中心に計6500万〜7000万バレルで、世界1日の消費量の半分強にすぎないとされ、実際の価格抑制への効果を疑問視する声が出ている。

東京新聞 2021年11月25日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/144609