ハウテン州ツワネ(11月9日のサンプルでオミクロン株が初めて確認された場所)では、過去3週間の陽性率が1%未満から30%以上に増加した。

ウイルス情報のデータベースであるGISAIDによれば、オミクロン株は11月25日の時点で、南アフリカで遺伝子解析されたコロナウイルスの76%を占めており、
同国内で最も優勢な変異株となっている。オミクロン株は、デルタ株がベータ株から置き換わったよりも早いスピードで取って代わりつつある。

同国では国民のわずか23%しかワクチンを接種していない。その原因の一端は、ワクチンの大半が北米やヨーロッパに独占されたことにある。
専門家らは以前より、ワクチン接種率の低い地域では、新型コロナウイルスがより速く進化し、感染が広がりやすく、
あるいは抗体が効きにくい変異株が出現して、パンデミックを拡大させる可能性があると警告していた。

その予測が今、現実となったのかもしれない。

「この新たな変異株は、感染症の制御は失敗したという結果を改めて示しています」と、
英ケンブリッジ大学の臨床微生物学者で、新型コロナウイルス感染症の世界的権威のひとりであるラビンドラ・グプタ氏は言う。

GISAIDによると、オミクロン株では、過去の「懸念される変異株」にもある多くの重要な変異とあわせて、
ヒトの細胞に感染するために不可欠なスパイクタンパク質で新たな変異が12カ所認められた。

既知の変異も含めれば、スパイクタンパク質に全部で32の変異があり、科学者らはこの数の多さが、
既存の抗体がオミクロン株を中和する能力を低下させ、現行のワクチンの効果が損なわれると懸念している。

「現在の抗体が結合するほぼすべての部位に変異があります」と、米アリゾナ大学でウイルスの進化を研究するマイケル・ウォロビー氏は言う。
加えてオミクロン株は、ウイルスが細胞により速く感染し、また人から人へより広まりやすくなる変異も持っている。
「この株はやっかいです。わたしがそう感じたのはデルタ株以来です」とグプタ氏は言う。

「今回のオミクロン株の場合、多くの変異があることはわかっていますが、その全体的な影響はまだ不明です」と、東京大学のウイルス学者、佐藤佳氏は注意を促す。
これまでにオミクロン株に感染したと診断された人は1000人ほどに過ぎず、また、南アフリカから得られたサンプルや遺伝子配列はごくわずかであるため、
オミクロン株が人から人にどの程度感染しやすいのかや、より重篤な症状を引き起こすかどうかについて、専門家が明確な結論を出すことは難しい。

明るい情報としては、最初に自然感染した後でワクチン接種をした人から採取した抗体を調べたところ、
合成したオミクロン型のウイルスを中和できたというものがある。

この事実は、mRNAワクチンのブースター接種によって、オミクロン株を強く防げる可能性を示唆している。


感染者の増加は懸念されるが、米ロックフェラー大学のセオドラ・ハッツィオアノウ氏の研究室のものを含む予備的なデータは、
ワクチン接種とブースター接種は依然としてウイルスに対抗する強力な手段であることを示唆している。

ハッツィオアノウ氏率いる研究者たちは、オミクロン株が持つスパイクタンパク質の変異の多くを含む合成ウイルスを作成した。
その結果わかったのは、新型コロナ感染症から回復した後にmRNAワクチンを接種した人の中和抗体は、変異した合成ウイルスを撃退できるということだ。

ただし、新型コロナが重症化するかどうかを見極めるには、感染から2、3週間かかると、サンネ氏は説明する。
つまり、既存のワクチンが現実世界でオミクロン株に対抗できるかどうかを判断するには時間がかかることを意味する。

それまでの間、オミクロン株やその他の変異株からの感染を避けるうえで最も有効な手段は、
より多くの人がワクチンを接種し、ソーシャルディスタンスやマスク着用などの公衆衛生対策を引き続き推進することだ。

「どうかワクチンを接種し、ブースター接種も受け、公共の場ではマスクを着けてください。
ウイルスが変異すれば、中和抗体を回避するようになる可能性が高いからです」とグプタ氏は言う。

南アフリカ科学産業研究評議会の主席研究員であるリドワーン・スリマン氏は言う。
「新たな変異体の出現を最小限に抑える基本的な方法は、継続的な感染を抑えることです。ウイルスは、複製できなければ変異できませんから」
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/21/120100583/