毎日新聞2021/12/3 20:14
https://mainichi.jp/articles/20211203/k00/00m/040/415000c

日本大学は3日の理事会で、所得税法違反(過少申告)容疑で東京地検特捜部に逮捕された前理事長、田中英寿容疑者(74)の理事職を解任した。大学はホームページ上で発表したのみで、理事長の辞任が決まった1日に続いて記者会見は開かなかった。9月に大学が家宅捜索を受けて背任事件が表面化してから一度も会見を開かず、トップ退場後も説明責任を果たさない姿勢に、教員や学生らからは「再生できるのか」と懸念の声が上がる。

理事職の解任で、田中前理事長に退職金は支払われない見込み。ホームページでは他にも、加藤直人学長が理事長を兼務▽背任事件の被害届を提出する▽約30人の全理事が辞任する――と発表したが、これらはいずれも報道各社が独自の取材で報じてきたものばかり。「記者会見を開催し、説明いたします」ともしているが、同大広報課は「準備中。日程が決まったら連絡する」として具体的な予定は明らかにしていない。

複数の関係者によると、日大は当初、3日に記者会見を開いて経緯を説明する予定だった。だが、一部の理事から「田中前理事長の功績もあるはずだ」などの意見があり、混乱。同日の定期理事会で田中前理事長の理事職解任案が審議されると、反対する理事が5人程度いたという。

田中前理事長は1日、理事長辞任の意向を大学側に伝え、同日の臨時理事会で全員一致で承認された。逮捕後、学内は「文部科学省に納得してもらえない。辞任は不可避」との意見が大勢を占め、前理事長はこうした状況を受けて辞意を固めたとされる。ただ、脱税容疑は否認し「徹底抗戦」の構えは崩していない。

「逮捕という形がなければ辞任しなかったのか」。現役の教授の一人は憤る。9月以降、大学側から学生や教員に説明はないといい、「無責任極まりない。人事などで透明性のある組織にしないと、同じことを繰り返す」と懸念する。

2018年に起きたアメリカンフットボール部の悪質タックル問題を機に発足した「新しい日本大学をつくる会」メンバーで、元法学部教授の長沼宗昭さん(74)は「学内には『田中派』が残っている。前理事長の影響力を排除するためにも懲戒処分にして厳しい姿勢を示すべきだ」と話した。

在校生からも厳しい声が上がる。経済学部2年の男子学生(20)は「トップが私腹を肥やしていたのなら許せない。学費を返してほしい」と憤る。法学部2年の男子学生(20)は「新型コロナウイルス禍で授業料を払うのに苦労している友達もいる。世間の信用を上げるため、しっかり説明してほしい」と望んだ。

末松信介文科相も3日の閣議後記者会見で「会見は社会に対する責任という点において行うべきだ」と日大の対応を批判した。【二村祐士朗、国本愛】