「海外に出ない」日本の若者が気付けない自らの「貧困」

https://lite.blogos.com/article/428777/?axis=&;p=1
磯山友幸 (千葉商科大学教授)

為替レートだけを見ていると、シンガポールと日本は2007年から13年たっても、ほぼ同水準にある。

ところが、である。この間、シンガポールは大きく成長を遂げた。2007年の名目GDP(国内総生産)は2727億Sドルだったものが、2019年には4980億Sドルになった。1.83倍である。

一方の日本はこの間、デフレに見舞われてほとんど成長せず、名目GDPは531兆円から、557兆円に4.9%増えただけだ。にもかかわらず為替レートが変わっていないのだから、日本人にはシンガポールの物価が実態以上に高く見える。アベノミクスが始まって以降の“円安政策”によって、明らかに日本人は貧しくなっているのである。

しかし国内にいると、貧しくなっていることに、ほとんどの日本人は気が付かない。

最近では特に若者の「内向き志向」が指摘されている。海外に出かけることを好まないのだ。
20代のパスポートの新規取得率は、1995年に9.5%だったものが、2003年には5%に落ち込み、その後、6%前後で推移。2017年には若干上昇したものの、6.9%だ。取得率で見れば、明らかに低迷している。

円安の長期化によって現地でのホテル代や飲食代はかさむようになった。海外に行った場合、明らかに日本の若者は貧しくなっているのである。

世界から人々が訪れるのは、円安とデフレによる「安さ」が最大の理由だ。もはや、シンガポールや香港、あるいは上海などの中国諸都市で買い物をするよりも、東京で買った方が安いのだ。日本人が安月給でせっせとモノづくりに励み、安い為替レートで、外国人にバーゲンセールを提供している。
5年前と同じ為替レートで受け取った1ドルは、5年前の1ドルとは違う。現地での価値は、経済成長とインフレによって、当然、減価しているのだ。

5年たっても1000円の価値が変わらない、成長もインフレもない日本で育った若者たちは、知らず知らずのうちに、世界の中でも「貧乏人」になっていく。