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防衛省が自衛隊基地の建設を計画する馬毛島=11月24日、種子島上空

「基地との引き換えは『振興』ではなく『見返り』だ」 鹿児島・西之表市 市長が反対する2つの理由
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[「防人」の肖像 自衛隊沖縄移駐50年](31) 第3部 琉球弧の今 馬毛島(上)

 鹿児島県の種子島で最大の人口1万4600人余りが住む西之表市。今年1月の市長選は、沖合12キロに位置する馬毛島(面積8・2平方キロメートル)への自衛隊基地建設問題が最大の争点になった。一騎打ちの激戦で投票率は80%に上り、反対する現職の八板俊輔市長(68)が144票の僅差で再選。だが、薄氷の勝利は政府の安全保障政策に翻弄(ほんろう)され、賛否で二分される住民の姿を浮き彫りにした。

 1951年から入植が始まった馬毛島は約40年前に無人島になり、土地の99%を民間の企業が所有していた。2007年に米軍機の訓練候補地に浮上し、19年に防衛省が自衛隊基地建設のため約160億円で買収し国有地となった。

 西之表市は1960年から人口減少が続く。高校卒業後の離島率が9割を超え、就職の選択肢の一つに自衛隊がある。急患輸送や災害復旧で頼る自衛隊への反対感情は薄く、八板市長も役割を認める立場だ。

 反感よりも親しみや感謝の念を抱く自衛隊の基地に反対する理由は何か。八板市長は「賛成する市民は国の交付金や経済効果を期待するが、活性化は地域の特徴に合わせて進めるもの。基地との引き換えは『振興』ではなく『見返り』だ」と指摘。離島苦や人口減少に悩む琉球弧の島に基地建設のメリットを示し、部隊の増強を続ける国の姿勢を批判する。

 反対するもう一つの大きな理由は、米軍の訓練だ。2本の滑走路を持つ基地が完成すれば、米軍空母艦載機による離着陸訓練(FCLP)も想定される。FCLPはかつて厚木基地(神奈川県)で実施されていたが、騒音の深刻さから東京都硫黄島に移転するほど周辺への被害が大きい。艦載機の拠点が岩国基地(山口県)に移ったため、硫黄島より近い馬毛島が訓練場所として浮上した。

 八板市長は90年代、朝日新聞の記者として沖縄で勤務し嘉手納基地などの被害に苦しむ様子を取材した。戦後奪われた土地は、米軍や自衛隊の基地として中国を抑え込む「第1列島線」として軍事利用される。

 米軍が民間の土地を強制収用した沖縄と異なり、馬毛島は99%が国有地。防衛省は環境影響評価が終わらないうちに島を整備するコンクリートプラント建設の入札を始めるなど強行的な姿勢で、市長権限で計画を止めるのは容易ではない。

 「基地ができれば失うものの方が大きい。国有化したから、となし崩し的に基地を造らなくてもいい」。国にあらがい自然や歴史を生かした活用を訴える背景にあるのは、沖縄を知る一人として故郷の島の軍事化を容認できない思いだった。(社会部・銘苅一哲)

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 沖縄に移駐して50年が経過する自衛隊は、対中国を名目に「第1列島線」と呼ぶ琉球弧の島で配備を増強し続ける。戦争につながる要塞(ようさい)化を懸念する声、地域の活性化を期待する声が入り交じる琉球弧の今を追う。