同性カップルを公的に認める「パートナーシップ制度」がある自治体がこの1年で倍増した。20日には埼玉県草加市が運用を開始。東京都も2022年度中の導入へ動きだすなど、同性カップルの権利拡大につながる動きが広がっている。パートナーシップ制度を定める法整備や、同性婚の実現に向けたステップになると期待する声も出ている。(奥野斐)
パートナーシップ制度 証明書を発行するなどして、行政が同性カップルなどを承認する仕組み。法的拘束力はないが、家族として公営住宅の入居が認められたり、職場の福利厚生制度を利用できたりする。ただ承認を受けた場合でも配偶者ではないため、税制上の優遇措置は適用外で、法定相続人にもなれない。病院で同性パートナーが面会や手術同意できるかは各施設による。一方、民間でも携帯電話の「家族割」サービス対象としたり、保険金の受取人に指定できるようにしたりなどの取り組みが進んでいる。

◆「当事者が安心して使える制度に」
 「導入に向け、着実に進んでいるのがうれしい。カミングアウト(周囲への公表)をしていない当事者にも安心して使える制度にしてほしい」。制度を求める署名を今年3月、東京都の小池百合子知事に提出した都内の会社員山本そよかさん(36)は話す。
 都が10月に都民らを対象にした調査では、約7割が制度を「必要」と回答。小池知事は今月7日の都議会で、「都民の意向や当事者の思いを受け止めて」22年度の実施を目指すことを表明した。
 都は今後、都営住宅の入居や都立病院での面会・手術同意の際に、夫婦と同等の待遇を受けられることを含め検討するという。都道府県では茨城、大阪、群馬、佐賀、三重の5府県に続くことになる。
◆「五輪の影響大きい」
 自治体のパートナーシップ制度は15年に東京都渋谷、世田谷両区が初めて導入。多様性の尊重や共生社会の実現がうたわれるようになり、徐々に広がった。市民団体「自治体にパートナーシップ制度を求める会」によると、少なくとも全国の141自治体が導入。昨年末の69自治体から2倍以上に増えた。
 渋谷区で推進に携わった元担当課長の永田龍太郎さんは「多様性の尊重を掲げた東京五輪の影響は大きいだろう」とみる。五輪憲章は性別、性的指向による差別禁止を明記。「行政が人権課題として施策に取り組む契機になった」と話す。

 ただ、自治体によって制度の対象となる人や範囲に違いがある。渋谷区は区内在住で戸籍上同性のカップルに限るが、国立市はトランスジェンダーの場合など戸籍上異性の2人も利用でき、在学・在勤者も含む。
 都内ではすでに12市区に制度がある。都が、先行する市区との連携、調整を含めどのような仕組みにするのかが注目される。
◆人口カバー率5割超えへ
 パートナーシップ制度は各自治体に広がるものの、国レベルでは、先進7カ国(G7)で唯一、同性カップルの権利を保障する法制度や同性婚を認める規定がないのが現状だ。人口1400万人を抱える都が導入に踏み切れば、制度を利用できる自治体の人口は国内の半数を超える。
 「人口が多い首都が加わるインパクトは強い。同性カップルが可視化され、性的少数者の権利保障全般に波及する可能性がある」
 LGBTの調査を続ける国立社会保障・人口問題研究所の釜野さおり室長は、こう分析する。19年にアジアで初めて同性婚が実現した台湾では、自治体レベルのパートナーシップ制度の拡大が政府の法整備に影響したという。釜野さんは「導入自治体が経験を踏まえた上で国に要望を出すこともできる。法整備の後押しになるのでは」とみている。

東京新聞 2021年12月20日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/149882