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 小田急線海老名駅(神奈川県海老名市上郷)隣にある小田急電鉄初の博物館「ロマンスカーミュージアム」。車庫を想起させるコンクリート造りの建物の中を進むと、1957年から35年間運行したオレンジ色の「SE車」や、高い床が特徴的な赤い「HiSE車」など歴代の車両が目に飛び込んできた。

 5種類の車両などを展示するミュージアムは2021年4月に開業した。元運転士、高橋孝夫さん(57)が初代館長を務める。同社発展の象徴ともいえるロマンスカーに特化した博物館の計画が立ち上がったのは約10年前。大切に保管してきた歴史的価値の高い車両の展示を通して、その魅力を発信するのが狙いだ。

 高橋さんは入社後、21歳だった1985年に運転士になり、88年から2002年までの14年間にわたってロマンスカーに乗務した。館内で展示中の全5車種を運転した経験があり、思い入れはひときわ強い。後進の人材育成に携わっていた20年冬、館長への異動を告げられ「再び関わる仕事ができる」と喜んだ。

 高橋さんが最も思い出深いのはロマンスカーの運転士になるための試験を受けた「LSE車」だ。「2階にある運転席に初めて座った時の緊張は今も忘れない。自身が運転する車両に初めて家族が乗ってくれたのもLSE。私の良き相棒です」。展示された車両を見上げ、ほほえんだ。

 開業前の準備で最も大がかりな作業となったのがこれら車両の搬入だった。5車種はいずれも実際に客を乗せて走ったことがあり、引退後は同社の車庫で保管されていた。中には役目を終えて約30年経過したものもあった。自走できない展示用車両は自走できる別の車両に連結して線路で完成前のミュージアム近くまで運搬した。その後はクレーンでつり上げて館内に敷設した線路に乗せ、最後はウインチでけん引した。

 館内には派手な飾りや長い説明書きの看板はあえて設置せず、展示物に集中できるようにした。車両内部を間近で見たり、座席に座ったりすることができる。新宿駅から箱根湯本駅までの沿線を再現した巨大なジオラマも設置され、プロジェクションマッピングによる演出の中、模型が走り抜ける。

 高橋さんは「鉄道にそれほど興味がない人にも展示を見てファンになってもらいたい」と意気込む。新江ノ島水族館と連携して車体の色に似たクマノミを展示したり、小惑星探査機「はやぶさ2」とロマンスカーのそれぞれの「旅」を比較した企画展を開いたりした。新型コロナウイルス下にもかかわらず、オープンから21年12月までの8カ月弱で約16万8000人が来館。より多くの人に魅力を感じてもらうため、知恵を絞る。「車窓からきれいな風景を楽しめるロマンスカーは多くの人に親しまれ、それぞれの思い出が詰まっている。訪れた人の『懐かしい』を励みに、もっとわくわくしてもらえる場所にしていきたい」

ソース https://news.yahoo.co.jp/articles/e08acd3d3bb135ba897bc9c35e7249f1990d465e