新型コロナウイルスの新変異株「オミクロン株」の流行で、政府の対応が後手に回っている。3回目のワクチン接種は計画を大きく下回り、検査キットや経口治療薬も供給が間に合わず、「最悪の事態を想定した万全の体制」(岸田文雄首相)にほころびが生じた。政府が感染拡大の見通しを見誤り、接種の前倒しの決断も遅れた影響から、予防、検査、早期治療という対策の3本柱が揺らいでいる。(柚木まり)

◆検査キット不足
 首相は31日の衆院予算委員会で、検査キット不足などの責任を追及されたのに対して「謙虚に受け止めたい。感染が急拡大する中で、検査が受けにくい状況も存在している」と問題が生じていることを認めた。
 首相は昨年の「第5波」と比べて感染力が2〜3倍でも対応できる医療提供体制を構築すると主張してきた。自宅療養者数は約17万8000人と見込んだが、直近では26万5000人に上り、既に「最悪の想定」を超過。重症化リスクの低さを指摘されるオミクロン株の特性を踏まえ、政府が感染者の自宅療養を広く認めたことも一因だが、備えと対応が追いついているとは言い難い。
 検査態勢の充実をうたっていたものの、政府の想定を上回る感染急増で抗原検査キット不足が深刻化。政府は医療機関に最優先で供給する方針を打ち出す一方、メーカーに1日80万回分の増産・輸入を求めるが、品薄の解消には数週間を要する状況で、診断に支障が出かねない。
◆ワクチン接種遅れ
 また、3回目のワクチンを打ち終えたのは昨年12月と今年1月で約408万人。全人口の3・2%にすぎず、対象者を1470万人とする計画比でも3割未満にとどまる。
 ワクチンの供給不安から政府が迅速に接種の前倒しを決断しなかったため、地方自治体は打ち手の確保などの準備が遅れた。専門家からは3回目接種の遅延で、オミクロン株の流行を抑え込む効果は期待できないと指摘されている。
◆少ない飲み薬配布
 対策の決め手と位置付ける経口治療薬も、米メルク製が医療機関や薬局にそれぞれ3人分配布されているだけ。米ファイザー製の実用化は早くても2月中の見通しで、必要な人に届かない恐れもある。
 立憲民主党の江田憲司氏は予算委で、首相が新型コロナへの「万全の体制整備」に自信を示していた12月の所信表明演説を持ち出し、見通しの甘さを批判した。「『屋根を修理するなら日が照っているうちに限る』というケネディ元米大統領の言葉を引用したが、首相のコロナ対応は嵐の最中に必死で修理しているように見える。時間がかかり、そのうち家も水浸しになってしまう」

東京新聞 2022年2月1日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/157462