時事通信社 2/5(土) 9:08

愛知工科大 小塚一宏名誉教授

 スマートフォンの急速な普及・高性能化に伴い、歩行中や自転車、自動車を運転中の「ながらスマホ」事故が増加し、社会的な課題になっている。2021年7月には、東京都板橋区の東武東上線の東武練馬駅近くの踏切を横断中の30代の女性が、どういう訳か踏切内にとどまり、電車にはねられて亡くなるという痛ましい事故が起きた。推測で言うことは避けたいが、警視庁が防犯カメラ映像を解析した結果、女性の顔は最後までスマホに向けられていたということだ。

 運転中の「ながらスマホ」は、自動車は無論のこと、自転車でも道路交通法違反だ。2019年12月1日施行の改正道交法で厳罰化され、警察による取り締まり強化による事故減少が見られる。一方、「歩きスマホ」を規制する法律はない。神奈川県大和市や東京都荒川区など一部の自治体で罰則を伴わない条例が施行されているにとどまり、歩きながらスマホをいじる姿は依然、駅のホームや階段、エスカレーター、道路の横断歩道など街中の至るところで見受けられる。

 これらの公共の場所での「歩きスマホ」は、一歩間違えば重大事故につながり、被害者になるばかりか、全く関係ない人を巻き込んで加害者となる危険性まである。加害者となれば、刑事責任とともに民事責任(賠償)を問われる。

 愛知工科大小塚研究室では、「ながらスマホ」時の視線を計測。科学的データに基づき、危険性を検証してきた。検証では、特に大都市の横断歩道、駅のホームや学内道路など、人が行き交う現場で実験を行うことを基本とした。自動車や自転車運転中の「ながら運転」の危険性も検証してきたが、本稿では「歩きスマホ」に絞ってスマホ使用者の視線を計測した結果を説明したい。

◇「歩きスマホ」事故の実態

 そもそも事故はどの程度起きているのだろう。東京消防庁管内では、2015年〜19年の5年間に「歩きスマホ等に係る事故」で211人が救急搬送されている(文献1)。211人のうち、「歩きながら」が177人、「自転車に乗りながら」が33人、その他が1人となっていて、約84%が「歩きながら」の事故だ。場所別にみると、「道路・交通施設」が70%以上で、発生時動作別では「操作しながら」が約40%、「画面を見ながら」が約28%だった。事故種別では、人やモノ、自転車などに「ぶつかる」が約40%強で、「ころぶ」(約30%)、「落ちる」(約25%)も多い。

 鉄道会社から国土交通省に報告された、携帯電話使用中に駅ホームから転落した(列車とは接触しなかった)人数は2015年度から19年度までの5年間で計223人に上る(文献2)。軽度〜中度のけがで済んだケースでは、報告に含まれていないものあると推測され、実数はもっと多いと考えられる。

◇駅ホームでの検証

 筆者らの検証実験では、人間の特性を計測する研究所や大学の研究室で広く活用されている視線計測装置EMRー8Bを使用した。視線計測の原理は、弱い近赤外光を目に照射し、両目の眼球を左右のアイカメラで撮影。画像処理などを行って瞳孔を抽出し、その位置から視線方向を得るというものだ。

2011年7月、NHKと共同で、西武鉄道西武新宿駅のホームで夕方ラッシュ時前まで実験を行い、結果は同年10月、「クローズアップ現代」で放送された。

 実験では、協力者の女子学生に、(1)旅行パンフレットを見ながら(2)スマホでツイッターをしながらーホームを歩いてもらい、両ケースでの女子学生の視線を比較。その結果、(1)の旅行パンフレットを見ながらの場合、パンフレットの内容が変わらないため、電車の入り口、時刻表などにも視線を送って周囲を見ながら歩行していることが分かった。

 他方、(2)の「歩きスマホ(ツイッター)」の場合、視線が画面にくぎ付けになり、周囲をほとんど見ていなかった。母親に手を引かれた2〜3歳の女児が女子学生のすぐ脇を追い抜いて行ったが、女子学生の視線は画面に集中して移動せず、女児に気が付かなかった。女子学生は実験後にビデオを見てびっくりし、女の子を蹴ったりする危険があったと驚いた様子で語っている。

※続きはリンク先で
https://approach.yahoo.co.jp/r/QUyHCH?src=https://news.yahoo.co.jp/articles/0b6477d86b08a864dd1d004a4ef20ee69c39fa4e&preview=auto
駅ホームでのツイッター歩行時の視線の動き(小塚名誉教授提供)
https://i.imgur.com/vOtfmTp.jpg
ツイッター歩行時の視線の動き(小塚名誉教授提供)
https://i.imgur.com/xJjGso4.jpg