誰でも動画をライブ配信できる無料アプリを使い、中学生が胸や下着を見せている−。名古屋市の30代女性から中日新聞の双方向報道「Your Scoop〜みんなの取材班」に投稿が寄せられた。配信を見ると、成人男性とみられる視聴者がアプリ内でメッセージを書き込んだりポイントを贈ったりして女児を巧みに手なずける様子が確認できた。こうした性被害につながる手なずけ行為を専門家は「グルーミング」と呼び、注意を促している。

 「おはよー!」「ごはんたべた?」「部屋にいる時はパジャマ?」

 自称西日本に住む女子中学生が昨年11月下旬の休日、自室でくつろぐ日常生活の配信を始めると、複数の視聴者がアプリのメッセージ機能を使って書き込みを始めた。

 アプリには視聴者が配信者にポイントを「投げ銭」できる仕組みもある。ポイントは換金できないが、アプリ内で開かれるオーディションイベント(人気投票)ではポイント数で順位が付くため、配信者は多くのポイントを集めようとする。

 ある視聴者がポイントを投げたところ、あどけない表情を見せつつ指でハートマークを作る女子中学生。同じ視聴者が「今日もかわいい」と畳み掛ける。すると女子中学生は服をずらし、片方の胸を見せた。直後に配信は停止。アプリ運営会社が違反行為を確認し、配信を止めたとみられる。

 今回ユースクに投稿した女性は「他の子どもたちもこういう危ない目に遭っているのではないか」と訴える。娘の友人がオーディションイベントに参加したため、応援しようとアプリを使い始め、女子中学生の配信を見つけたという。

 性犯罪に巻き込まれると心配した女性は、運営会社に何度も配信内容を通報していた。女性は「服をほめてめくらせようとするなど、視聴者が巧みに誘導していた。子どもはポイントが欲しいのだろうが、どこまでリスクを分かっているのか…」と話す。

 グルーミングでは、性犯罪を目的に大人が子どもに寄り添いながら近づき、懐柔する。交流サイト(SNS)上でのやりとりを通じて性的な画像を送ってしまうなどの被害が報告されており、児童ポルノの温床になりかねない。法相の諮問機関である法制審議会でもグルーミングに関する罪の新設を審議中だ。

 性的な画像の盗撮やリベンジポルノなどの被害者支援に取り組む東京のNPO法人「ぱっぷす」の相談支援員、後藤稚菜(わかな)さんは「初めは全く性的じゃない話から始まる。『受験大変だね』などと気遣うような言葉をかけ、まず子どもの信頼を得る。その上で性的な要求をしてくるので、子どもでは断り切れない」とグルーミングの危険性に警鐘を鳴らす。(中日新聞・森若奈)

相談できる環境が大切
 警察庁によると、SNSを通じて犯罪被害に遭った子どもは、2019年に把握できているだけでも2000人以上。20、21年も1800人に上る。中でも児童ポルノ関連の被害が増えている。

 ネットの安全利用に詳しい情報リテラシー講師小木曽健さん(48)は「自撮りした性的な画像をSNSで送る人がいるが、一対一のやりとりでも流出することはある。リアルタイムで配信する動画も録画され、誰でも見られるサイトに置かれる危険性がある」と指摘。性的な画像と個人情報が結び付けば性犯罪目的で脅されることもあると訴える。

 被害を防ぐためには、周囲の大人が普段から子どもが相談しやすい環境をつくることが大事という。小木曽さんは「日ごろから『悪いのは巧妙な大人。あなたも危ないよ』と伝えてほしい。『親である私の方が戦い方を知っているよ』というメッセージも有効だ」と話す。

 「#889X」にダイヤルすると、各都道府県の性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターにつながり、SNSを通じた性被害も相談できる。

西日本新聞 2022/3/27 6:00
https://www.nishinippon.co.jp/item/o/897269/