「戦争犯罪」繰り返すロシア軍 兵器一新も徴集兵頼み 陰湿な新兵いじめ…おぞましい体質は不変

<ウクライナ危機を読み解く>
 ウクライナに侵攻したロシア軍が「戦争犯罪を行っている」として、国際社会からの批判が日増しに強まっている。民間人らに対する残虐行為が次々と明らかになる中、むしろ目立つのは軍隊の弱さと士気の低さだ。近代化を進め、軍事力ではウクライナに圧倒しているにもかかわらず勝てない背景には、ソ連崩壊後も変わらないロシア軍のおぞましい体質が根底にあるようだ。(論説委員・青木睦)
◆いじめから自殺に追い込まれ、餓死した若者も…
 ソ連崩壊後の1990年代、ロシア社会は底無しの混迷に沈んだ。社会主義経済から市場経済への体制移行に苦しみ、国家機能は著しく低下して秩序は崩壊した。
 国防予算が大幅に削られた軍も内部荒廃を来した。汚職は蔓延し、徴兵制度は機能不全で兵員は大幅に定員割れ。古参兵による新兵いじめが深刻化した。
 新兵いじめはどこの国の軍隊でも起こり得るが、ロシアの場合は規模も陰湿ぶりでも桁外れだった。いじめから自殺に追い込まれたり、満足な食事を与えられずに餓死した若者もいた。毎年、新兵いじめによって数千人が死亡したといわれ、ロシアに駐在していた日本の自衛官が「対外戦争もしていないのに…」と絶句したのを思い出す。
 人権団体「兵士の母親委員会」は、新兵いじめから逃れてきた脱走兵の駆け込み寺のような存在だった。90年代半ばに始まったチェチェン紛争では、ろくに訓練も受けていない新兵がいきなり前線に送り込まれた。そんな息子を取り戻そうとする母親らを支援したのも母親委員会だ。
 母親委員会のある女性は「軍はその社会を映し出す鏡よ」と言った。軍はロシア社会が抱える不条理や矛盾が凝縮されたような組織だった。
*兵士の母親委員会 徴集された若い兵士とその家族の人権を守るために1989年発足。1994に始まったロシアからの独立を求める南部チェチェン共和国との紛争では反戦を唱え、捕虜になったロシア兵の解放交渉にも携わった。

◆新型装備 通常兵器で7割、戦略兵器は8割以上に
 プーチン時代に入り国情が安定するにつれ、ロシアは軍の近代化を進めた。
 とりわけ2008年に起きたジョージア(グルジア)との軍事紛争以降の進展は目を見張るものがあった。この紛争では軍の通信装備が悪く、司令官が従軍記者の衛星電話を借りたという逸話も残っている。
 プーチン大統領は18年の年次教書演説で、迎撃が難しい極超音速ミサイルシステム「アバンガルド」や、原子力推進式の巡航ミサイルなど6種類の最新鋭兵器の開発を公表した。
 近代化は20年の時点で、新型装備の比率が通常兵器で70%、戦略核兵器は80%以上に達したという。兵員面の改革では、徴兵よりも契約制の軍人を増やす「プロフェッショナル化」を進めた。
◆プーチン氏「職業軍人だけで戦う」はウソ
 その軍事力を見せつけてウクライナを圧倒するはずだった侵攻作戦。プーチン氏は徴集兵は投入せず職業軍人だけで戦う、と言った。
 ところが、ウクライナ側の捕虜になったロシア兵には徴集兵もいることがすぐにばれてしまった。
 しかも、「単なる訓練だから」と上官にだまされてウクライナに送られた捕虜が、スマートフォンで母親に「どうなっているのか分からない」と訴える光景も報じられている。結局、ロシア国防省も徴集兵の派遣を認めた。
 侵攻以来、母親委員会にはわが子を捜す親からの問い合わせが殺到しているという。チェチェン紛争時と同じ悲劇が繰り返されている。兵器は一新されたが、軍の体質は変わらないようだ。
*ロシアの徴兵制 防衛白書によると総兵力は約90万人。米シンクタンク・戦争研究所によると、そのうち徴集兵は約26万人。徴兵は18~27歳の男性が対象で年2回あり、任期は1年。今春は約13万人の徴集を予定しており、欧米メディアによると,ショイグ国防相は「徴集兵は紛争地に送らない」と強調した。

東京新聞 2022年4月11日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/170819