2022/06/12

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高橋健次郎

「塀の中」の収容年数に入れ墨の範囲、出所後に「関係を切りたい人」の有無……。パッと見ではドキッとしてしまう履歴書がとじられた求人誌があります。受刑者ら専用の求人誌の名前は『Chance(チャンス)!!』。どんな求人誌でしょうか。(朝日新聞記者・高橋健次郎)






仕事の有無が再犯に影響

仕事がないと生活基盤を失うことから、大きく再犯に影響すると言われています。罪を繰り返さないためにも就業は欠かせません。一方で、罪を犯した人の就職活動は厳しいのが現実です。

国も、犯罪歴を知った上で出所者を雇い入れる「協力雇用主」の制度などで、罪を犯した人の就業を後押ししています。

『Chance!!』にとじられた4ページの履歴書には、「罪名」や「再犯しないための決意」「反社会的勢力との関係」など、市販のものではまず目にしない項目が並びます。

求人誌には、出所者を雇い入れる意思のある企業が有料で情報を掲載します。履歴書は、受刑者らがそうした企業に送るためのもので、特殊な項目になっているのです。






刑務所に届く求人誌

『Chance!!』の創刊は2018年。A4判で年4回発行しています。

最新は18号で、本文63ページのオールカラー。建設会社を中心に24社が求人を出しました。全編にひらがながふられています。

全国の少年院や刑務所などを対象に3千部以上を無料で配っています。刑務所内の掲示などをみて直接求人誌を請求してきた受刑者らも含まれていて、その数は900人に迫ります。

受刑者らは専用の履歴書を掲載企業などに送付。面接などを経て採用、不採用が決まる仕組みです。つまりは「塀の中」で内定が決まります。









〝非行〟の過去

発行は、「ヒューマン・コメディ」という会社です。

代表の三宅晶子さん(51)が2015年に立ち上げました。

三宅さんには〝非行〟の過去があります。

中学生の頃には、酒やたばこも覚えていました。高校入学後には両親と衝突し、家出。学校に行かなくなり、素行を理由に入学後5カ月で退学処分になったそうです。「このままじゃ、ダメだ」と、高校に入り直し、大学へ。勤め人も経験しています。

自身が立ち直ったこと、そこには周囲のあたたかな支えという基盤があったこと。そんなことが、出所者支援の原体験になっていると話します。







「お客様」にハードル

『Chance!!』を通じて就業したのは、創刊以来延べ150人(5月末時点)。半年以上の定着率は4割を超え、1年以上でも3割を維持しています。「『9割が飛ぶ』と言われてきた出所者雇用の業界では、高い数字です」と三宅さんは話します。

ポイントは、企業に課す掲載のハードルです。

身寄りのない出所者であれば、身元引受人になる。寮や社宅などの住居支援を行う。給料の前払いなどで、当座の生活費を支援する――などを求めています。

掲載にあたり、企業はお金を払っています。ですから、いわば「お客様」。それでも一定の条件を課すのは、労働環境が劣悪では定着しないからです。

「連日のサービス残業で、狭い部屋に何人も押し込められて暮らした」

三宅さんは、粗悪な環境を苦に辞めていく出所者の声を実際に聞いたことがあり、定着するための方策を考えたそうです。

コロナ禍でも、なるべく掲載を検討する企業の元へ足を運ぶそう。「雇ってやる」のような態度が見え隠れすれば、掲載を断ることもあるといいます。






「少年院に2度行った」
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